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それって、愛?

我が主(メア・ドミヌス)
 時々、本当にごく稀に聞く呼び名。
 そう呼びかけるときの楸は、いつものおちゃらけた様子なんて全く感じさせないくらい恭しく頭を垂れる。
 そうして、呼びかけられたシオンはとてもとても複雑そうな顔をする。
 まっとうな意味での忠誠の証。
 シオンの命令に従い成し遂げる決意。
 ある意味で最後通告。
 楸が自身の意見を曲げることがないという表明。

「こういうのを見ると、主従って感じするよな」
 のほほんという彼にアポロニウスは落としていた視線を上げる。
 一枚の写真を眺め、呆れとわずかな羨望と乗せてため息をつくカクタス。
「何がだ?」
「シオンと橘。橘なんていっつもあんなのなのにさ。
 こういうのって騎士みたいだよな」
 アポロニウスの問いかけに、カクタスはテーブルに投げ出すように写真を滑らせる。
 そこには先ほど名前を挙げられた二人の姿。一体いつ撮ったのだろうか、まっすぐに立ったシオンの前で、片膝をついた礼をする楸が映っていた。
「分からなくはないな」
「だよなぁ。あ、もしかしてアポロニウスって騎士みたことあるか?」
「見かけたことくらいなら。
 公式の場に出たことがないし、そういった知り合いもいないしな」
 ちらっと脳裏に思い浮かぶものもなくはなかったが、アポロニウスはそっけなく返す。
 わざわざこちらから藪をつつくこともあるまい。
「橘ってシオンの従姉だろ? どうしてそこまでできるかなー?」
「さあな。身内から従者をっていうのは、珍しいことでもないと思うが」
「そういうもんかー」
 どこか納得していなさそうなカクタスは、うんうんうなった後思いついたように言う。
「愛か?」
「……愛と言えば愛だろう」
 狭義の意味で言っているだろう彼に、アポロニウスは広義の意味で返す。
「そりゃそうか」
 今度はすんなり頷いて、写真を寄せて本を広げる。
 どうやらまだ勉強をするつもりはないらしい。

「しーちゃんのためなら、死んでもいいよ」「縁起の悪いこというな」
「愛だなぁ」「哀ともいえるな」。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/