零れ落ちた涙
よく見ると言えばよく見るし、異様と言えば異様と言える光景だった。おんぶされているように楸がシオンにもたれかかっている姿は。
恐る恐る問いかけたカクタスに、シオンは一言「たまになる」で済ませてしまった。
幼馴染の梅桃や、身内のコスモスが動じてないあたり、それは正しいのだろう。
両腕をしっかりと首に回して、彼の肩へおでこをこするようにぐりぐりしている楸は、親に甘える幼児のよう。
首に腕を回されているにも関わらず、飲み食いを続けるシオンもおかしいと言えばおかしいが。
なんでこうなったんだっけなーとカクタスは何とか思い出す。
そもそも今日は確か、楸の誕生日のはずで。だからこそ知り合いのお店の座敷を借りてパーティをしている、はず、だ。現在進行形で。
コース料理はあらかた終わって、誕生日ケーキも切り分けられてほとんどがすでに誰かのお腹の中。
一通り食事が終わってまったりしている中でのこれだ。
誕生日祝いにとお酒がちょっと出されたり飲んだりはしたけれど、酔っぱらったのだろうか?
カクタスたちの祖国パラミシアでは飲酒は十六歳からでも、この国では十八歳からということで、とりあえず一杯だけ飲もうという流れになったのは覚えている。
ちなみに、シオンだけは誕生日がまだなのでソフトドリンクオンリーだったりする。
抱きついた当初から、彼女はごめんねごめんねと繰り返している。
身内以外の槐やアポロニウスは、やっぱり酔ってるのかなー、一応迷惑かけてることはしっかり自覚してるんだなーという生暖かい目を向けている。
とはいえ、そうもいかない相手もいる訳で。
ちらりとカクタスが様子を伺った相手は、左側に座っているアルトゥール。
流石に恋人がこんなことをしているとあっては心中穏やかではないだろう……そう思っていた。
怒るでもなく、びっくりしているわけでもなく、なんとも形容しがたい顔をしていた。顔をしかめてはいるものの、嫉妬というよりもどこか痛々しいものを見るかのような。
一方楸は恋人のそんな様子には気づいていないのか、離れる様子も口をつぐむ様子も見られない。うわ言のようにただ謝罪を繰り返し、ぽろぽろと涙をこぼしている。
なんなんだろう?
不思議には思ったけれど、自分が立ち入る問題じゃないだろうとカクタスは考え、皿に残ったケーキの攻略に取り掛かった。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
本当に守られてるのはわたしの方なのに。