触れてはいけない
視線に気づいて振り返った時、たまに相手が不可解な表情を浮かべる。
あっけにとられたようなぽかんとした顔だったり、怪訝そうな顔だったり――時々は、青ざめた顔だったり。
きっと、その人たちは見なくていいものを見たのだろうと思う。
普通に生きるには、見なくていいもの。見ない方がいい存在。
不用意に近づくと危ないのは、言うまでもなく人の方だ。
人でないものを認識できる人は存外少なくて、だからこそ、『自らを認識できる相手』にすり寄ってくる。
比較的無害なものたちが自分の周囲には多いから、たまたま見てしまった者たちはびっくりするだろう。
『見えている』自分からすれば、あれらのいない場所などないといっていいくらいなのだけれど。
とはいえ、そんなことを知らない相手にわざわざ知らせるつもりはない。むやみに危険にさらすのは嫌だし、知らないからこそ無事でいられることだってある。
だから、何も気づかぬふりをして問う。どうしたのと無邪気に子供らしく。
そうすれば、皆いいえと笑う。なんでもございませんよ、と。
知らせようとしないのは相手の優しさだろう。
こういったことがあった後に陰陽師が呼ばれることも何度かあった。
心配されているのはとてもわかる。
私が不安そうな顔をしていれば、もっと心配そうにするだろう。乳母も女房達も、姉兄たちも。
知らないふりをすればいい。わからないと笑えばいい。
何かを悟ってしまったような顔も、どこか痛ましそうな目も――今にも泣きだしそうな、その表情だって。皆、私に知られまいとしているのだから。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
現はかなり面倒な子です。それをそばで見ていたからこそいろいろ物申したい人もいるし、実際口に出すけれど、彼女は笑顔で拒絶するタイプなので、聞き届けられることはかなり少ない。