条件付きの承諾
リアトリスは頭を抱えていた。
PAの団長職に就いてからというもの、何度抱えたか分からないが、今回は別格といえる。
長年追っていた凶悪犯――指名手配犯を逮捕できたことはいい。
ただ、問題がありすぎた。
逮捕した捜査官が入団一年目の新人……しかも未成年ということ。
逮捕現場が遺跡で、しかも重要そうな場所なのに一部破壊してしまったこと。
その遺跡を擁する国への手続きがとてもとても面倒だったこと。などなど。
考え始めれば頭が痛くて仕方がない。
捜査団の権力は大きいが、それは正式な手順に則って初めて使えるもの。
コントラーリウスの逮捕は国連加盟国の悲願ではあるが、だからといって自国で好き勝手されて問題が出ないはずもない。
遺跡の破損は涙を呑むから犯人をうちで処分させろという相手国をなんとか退けて、コントラーリウスと被害者たちをつれて戻ってきたのが昨日のこと。
古代の人が今の時代によみがえる、ということは稀にあり、彼らの身分保障やその後の世話なども面倒ではあるのだが……今回は身元保証人がいるだけましなのだろう。
大きくため息をつけば、応接用のソファで書類を眺めていた銀の賢者――今回の身元引受人――が顔を上げる。
ぱちりと大きな瞳を瞬かせ、彼女はやわらかく笑う。
「そんな顔をしていると幸せが逃げていきますよ」
せっかくいいことがあったんですから。と続けられてため息を飲み込む。
「良いこと……ですけどね」
後始末が完全に終わっていない状況では諸手を上げて喜べないと言外に滲ませれば、ますます彼女は笑う。その肩書に似合わない、童女のように。
「十年近くぶりのコントラーリウス逮捕、パラミシアやエルフへのアドバンテージもとれましたよ?」
柔らかな笑みに似合わぬ黒い台詞。慣れてしまったリアトリスには響かないが、今回活躍した彼らが見たら驚くだろう。
もしかしたら、助け出された彼だけは動じないかもしれないが。
「終わりよければすべて良し、ですよ」
もう一度だけ笑って、彼女は再び視線を落とす。左右に積まれた書類の山は、いつの間にか右の方が低くなっていた。
言われてみればと気づく。
今回、捜査団の痛手はあまりない。
せいぜいが相手国との調整だが、それだって『調整』で利くレベルと言えるのだ。
いろいろ鑑みても、有利に立てるのはこちら側。
ならば、この際とことんやってやろう。
多少派手にはなってしまうが、後の団長の最初の大仕事となれば問題あるまい。
にんまりと笑ったリアトリスに彼女は気づいていたのだけれど、無論口をはさむことはなかった。
数年後、隊長って初仕事でコントラーリウス捕まえたんですかと質問攻めにあうシオンの姿が見られたとか。
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派手な部分は若者たちに。後始末は先達のお仕事。