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しんせつ

一先ず、戦略的撤退

 どさどさと音すら立ててできた山に、鎮真は眉を寄せる。
 本にしては薄い。パンフレットにしては紙の質がいい。
 あえていうなら絵本の装丁のような冊子が机の上に乗せられている状況に困惑するしかない。
「なんだ? これ」
「さあ」
「さあってなんだ」
 ここまでこれを運んできた相手――そこそこ中堅だろう魔導師のあいまいな返事にどうしたものかと頭を抱える。
「賢者様から持って行ってほしいと頼まれましたので」
「姫から?」
 彼らが賢者と呼ぶのは現姫の方だろう。
 しかしますますわからない。仕方なく冊子を取り上げて広げてみる。
 見覚えのある相手が珍しくも裃姿で映っていた。確か火影七夜の遠縁のはず。
 もう一冊広げてみる。
 こちらは直垂姿で、うちの傍系だったような。
 しばらく固まっていた鎮真は次から次へと冊子を広げ、すべて確認してから何事もなかったかのようにまとめ始めた。
 最後の一冊を山となってしまった冊子に乗せて、上着を取る。
「副評議」
「出かけてくる」
 問いかけを切り捨てて目的地へ急ぐ。
 とにかく問いたださなければ!

「どういうことですか?」
 相手が相手だからだろう。不敬にならないように気を付けつつ、それでも焦るあまり乱暴な態度になってしまう鎮真。
 けれど相手――彼女は平然と告げる。
「どうもこうも、こちらに送られても困るので」
 さらりとした返答に、鎮真は目を伏せ、そっと部屋を伺う。
 良かった、あの姫はいない。
 良くも悪くも、こちらの姫――現だけならば、もう少し砕けられる。
「……お知らせくださるのは大変助かりますが」
 言葉を選びつつ言えば、現が顔を上げて鎮真を見た。
 色のない表情だが、それでもわかることはある。
 なにか、話が食い違っている?
「一時、預かりはしましたが……私がかかわることではないでしょう?」
 その問いかけに、直感が正しかったと知る。
「おっしゃる通りで。搦め手を使おうというのでしょう」
 内心はひやひや背中は汗だくで何とか言葉を返す。
 この時ばかりは腹芸に慣れてきていてよかったと思う。心底。
 お礼と詫びを入れてそそくさと立ち去る。
 あまり長居をしていては立場も悪くなるし、空姫がお戻りになられた場合とても面倒なことになるからだ。
 空姫宛に見合い写真が届いているという煽りと判断して、追い立てるままに来てしまうなんて。
 まだまだ青いよなぁと自嘲しつつ帰り道を行く。

 そんな彼が、見合い写真の本来の宛先が咲夜だったことに気付くのは、翌日になってからのことだった。

鎮真は早とちりが多いしお人よしではあるけれど、相手が相手だからであって。
がんじがらめ過ぎていろいろ動けないけれど、それでも黙っちゃいられなかった。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/