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どこかとおくで…

崩れ落ちる日常

 それはいつものことだった。

 学校帰りに本屋に立ち寄った、ただそれだけ。
 年が明ければ受験はすぐそこだから、もう一冊参考書を買おうかななんて思って、そういった本が多い大型書店に寄った。それだけのことだった。

 いつもと変わらない日だった。
 友達がくれたペンが使いやすかったから、同じものを買おうと本屋併設の文具売り場を見て、小説の新刊がないかななんて探したり――よくしている寄り道だった。

 よくある日だった。専門書が欲しくて、近場で一番そういったものがそろっている場所へ行った、それだけ。
 ついでに食料や日常品も買おうと思っていたから、ちょっと多めに財布に入れていたくらい。
 月に一回はある、『いつものこと』だった。

 ほぼ毎日の帰り道だった。
 上の階に本屋が入ったデパートは、通勤路にあって便利だった。
 食品コーナーはたまに安いものがあるためチェックを怠らず、時間が遅い時には値引きされたものを買ったりしていた。
 その日もそうした行動をとって、目ぼしいものがなかったから上の階でウィンドウショッピングをして、帰るはずだった。

 そうして乗ったエレベーターの中、自分以外にいたのは三人。
 けれど、同乗者なんてあんまり気にすることもなく、ただ階をしめすランプを眺めていて――揺れた。
 実際には揺れていなかったのかもしれない。めまいがした、の方が正しいかもしれない。
 ポンと軽い音がして開かれた扉、何も思わずに外に出て、凍りつく。
「え?」
 小さな疑問の声は誰のものだったろう?
 それなりに人がいるはずのデパートなのに、そこに広がっていたのは廃墟といった様子のコンクリートの柱と、遠く見える緑だけ。
 あわてて振り返れば、建物と同じくらい朽ちた扉が開かれたままのエレベーター。
「うそ」
 呆然と呟いたのは、たぶん清だった。

 物語でありがちな予兆は何もなく、『いつも』は消え去ってしまった。

とても散文テイストなこのシリーズ。
微妙に微妙なところで続いてます。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/