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ナビガトリア

ここからまた始めよう

 目を開けたときに、最初に映ったのは自らの手だった。
 天井に向けて伸ばされた右腕は、何かをつかもうとしていたのか。夢の内容を忘れてしまった今となっては確かめようもない。
 知らず、息をついて、腕を下ろす。
 緩やかに呼吸を繰り返して感覚を研ぎ澄ます。
 体温で温まった暖かな寝床。首筋に当たる髪の感触。恐る恐る手足に力を入れれば、自分が思うように動く。――それに、安堵する
 今日で三日目だというのに、まだなれないのだろう。
 ごろりと寝返りを打って、アポロニウスは枕もとの時計を見た。
 いつの間に寝ていたのかわからないが、1時間くらいは寝ていたらしい。
 午後の検査は夕方だから、まだ時間はあるのだが、このままだとまた寝てしまいそうだ。
 体力の落ちた今の体では毎日のようにある検査が少々辛い。
 寝て体力を回復させることも大切ですよ、とは担当医の弁だった。
 確かに、眠っているほうがいいのだろうと思う――余計なことばかりを考えてしまうから。

 こうして、人の体に戻れるとは、正直思っていなかった。
 あの姿になってから、そりゃあ元の姿に戻りたいと思わなかったといえば嘘になる。
 けれど、持ち主と話が出来ることは稀で、そうでなくとも意識を保っていられた期間も――石に封じられていた時間から考えれば割合は少なかったのだろう。
 せっかく戻ることが出来たのだから、むざむざとチャンスを逃すことはない。
 戻ったせいで言葉に不自由することになろうとは思わなかったけれど、いちおう片言でも会話が出来るだけ御の字だろう。

 ――生きていかなければいけない。ここで、この時代で。

頼れる相手がいる分、気持ち的には少し楽だけれど……

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/