わかれ道
二つにのびたわかれ道。
さあ、どっちを選ぼうか?
いまだに残る頭痛と倦怠感。
うーん。やっぱり攻撃魔法は使うもんじゃないなーと改めて思う。
「二度と使わない」って言い切れれば楽なんだけど。
ごろんと寝返りをうつ。開け放した窓から入ってくる爽やかな空気。
あれだけ寝たにもかかわらず、体調は万全とは程遠い。
枕もとのサイドボードに目をやって、『彼』がいないことを確認する。
プリムからのプレゼント。
かたっぽだけだったイヤリングは、昨夜死ぬような思いをして両方そろえた。
うーんと両手を上にのばして、そのままパタンと両側に落とす。
昨日はつい勢いでいっちゃったけど、さてどっちを選ぼうか?
一つ。宣言通りアポロニウスを人間に戻す。
二つ。アポロニウスが主張したように知らなかったふりをして、他人に譲る。
どちらが後で後悔するかを考えれば一目瞭然。
見捨てる方が後味悪いに決まってる。
こっちを選んだ事で「あたし馬鹿だなぁ」って、きっと後で思うこともあるだろうけど、選ばなきゃ良かったとは思わない、と思う。
まだ少し残るだるさを振り切って、あたしは勢い良く立ち上がる。
そうと決まれば実行あるのみ。
まずはおじーちゃんおばーちゃんの説得を始めよう。
「コスモス」
あ。なんか呼ばれてる?
「コスモス」
あ、やっぱり呼ばれてる。
誰の声だろ? 聞き覚えがあるような無いような。
「Expergere」
何語?
重いまぶたをこじ開けて、声を主を見る。
最初に目に入ったのは赤い色。
紅葉、イチゴ、リンゴ。どれにも当てはまりそうで、当てはまらない鮮やかな赤。
「Expergione?」
こっちを見つめる目は緑。
聞きなれない言葉でため息をついている。
……誰だっけ?
「ぷっ」
薄がこらえきれないといった感じでふきだした。
……お陰で思い出したけど、薄め覚えてろ。
「Salve.Apollonius」
とりあえず挨拶を返す。
そっかー、さっきまでのは夢かぁ。
机につっぷしたままに寝ちゃってたらしい。
ここ最近協会との手続きとかやってたから忙しかったもんな。
『良く寝ていたな』
『昼寝ってそういうものでしょ?』
夜に寝れないから、ちょっとした空き時間に寝てしまうのも悪いものだと分かっているけど。寝なきゃもたないわよ。
『大切な話があるんじゃなかったのか?』
『ああそうそう。それで今日は来たんだった』
足元に置いてあった鞄からファイルを取り出して中身を確認する。
アポロニウスに関する身体データその他の書類と、それから同意書などなど。
『さて、この時代に甦ったアポロニウス君』
『甦ったってな』
『ちゃちゃを入れない。
これからこの時代で生きていくのに、色々必要でしょう?』
言ってにんやりと笑う。
大昔の人間が現代に甦って、何の不都合も無い。
なーんてことはない。
魔法協会に所属するか、PAに所属するか。
彼に示されたのはその二つの道。
『ずばっと言っちゃえば、
徹底的に世間から隠されるか、危険な現場に放り込まれるかなんだけど』
『良い二択だな』
げんなりした顔でアポロニウスは言う。
うん。あたしもそう思う。
あの時はあたしが選ぶ番だった。今度は彼が選ぶ側。
さて、彼はどちらを選ぶんだろう。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
いろんなわかれ道の後にここにたどり着いた。
コスモスはめんどくさいなあと思いながらも険しい道を選んでいく子で、アポロニウスはいつの間にか険しい道にたどり着いちゃう子なかんじがします。