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これは誰

 扉を開けると知らない顔がいた。
 年はどう見ても十代前半。くるくるした栗色の髪で顔にはたくさんのそばかす。
 どう見ても体にあってないだぼだぼの服を着て、無心に食事をとっていたらしい。
 相手も俺を見て驚いたのか、パンを口いっぱいに頬張ったままの状態で固まっていた。
 ふー。
 長くゆっくりと息を吐き出す。
 部屋を間違えた?
 それはない。
 現に奴が腰掛けてるベッドの側には、かさばるからと置いていった荷物がある。
 このガキがドロボウで、やすやすと入られたにしては、反応が変だ。
 となると、こいつを連れてきた犯人は一人。
 そいつに文句を言うのはとりあえず後回しにして、さてどうしたものかと考えていると、廊下から耳慣れた声が聞こえた。
「戻ってきてたの?」
 ゆっくりと声の方に振り向けば、心持ち身を引くディアナ。
 一瞬かつての……敵同士だったことを思い出すが、あのころの態度に比べたら可愛らしいものだろう。
 そのまま何も言わず視線を下げる。
 ディアナが両手でしっかりと胸に抱きかかえている服に。
 彼女が着るには小さく、ほぼ間違いなく部屋に居た闖入者のものだろう。
「で、誰だ?」
 顎をしゃくってそいつを示すと、案の定ディアナは目を泳がせる。
 名前も聞いてなかったか。
「犬猫みてぇにいちいちガキを拾ってくるな」
 ため息交じりに言えば、視線を落としてなにやら呟いた後、納得いかなそうに再び視線を上げる。
「川に落ちてずぶ濡れだったのよ。放っておけないじゃない」
 少し前まではそれでも申し訳なさそうだったが、今ではこう切り返してくる。
 昔と比べると逞しくなった……とでも言えばいいのか?
 そのまま言う事は言ったとばかりに部屋に入り、ガキと談笑するディアナ。
 ……俺は無視か。
 正直、なんとかならんかと思う。
 俺たちは旅の途中で。だというのにこいつと来たらガキを……こいつみたいな身寄りのなさそうな奴を拾う。
 いつまでも面倒見れるはずが無いから、結局は孤児院やらに預けるしかないんだがな。
 なにやら談笑し、またディアナが出て行く。
 で、また俺は無視か。
「おにいさん、おもしろくないんでしょ」
「あん?」
 揶揄するような響きの声に仕方なく顔を向ける。
「おねえさんがボクの味方するから」
 マセガキが。
 あー。なんか前にもあったような気がすんな。こういうやりとり。
 なんだってディアナはいつもこんな生意気なガキを拾って来るんだか。
 ため息をこらえて、とりあえずこのガキには前に似たような事を言ってきた奴と同じように、目上に対する礼儀を教えてやった。

 この件からかなり時が流れた後も、ディアナは同じようにガキを拾ってきた。
 癖を直すことはやはり難しい事らしい。

……短いし、小ネタばかりだけど、凄い勢いで増えてますねこのシリーズ。おそろしや。
「赤のクルセード」にて「拾ったのよ」とおっしゃった時にはびっくりしましたが。
犬猫のように子どもを拾うディアナ様。
最初のころはちょっとは遠慮してたのではないかと。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/