錯覚
暗いくらい洞窟の中、一人思う。
結局私は何が欲しかったんだろう?
この座から、『昴』という場所から降りることが出来れば、何もかもがうまく行くと思っていた。
自由に話せて、自由に動けて、自由に恋が出来る。
そう、信じていた。
生まれた頃から、次代の昴としてふさわしいように育てられてきた。
発言はひどく重いもの――だからこそ、不用意に言葉を発することがないように。
行動を起こすなんてなおさら――慎重に。
でも、『昴』の位は、本来私のものなどではなく。
私はただの飾り。『彼女』が戻るまでのつなぎ。省みられることなどない存在。
それを悲しいと思ったことはなかったし、むしろ早く戻ってきて欲しいと思っていた。
だけど……
放逐された今思う。
『自由』はこんなにも怖いものだった。
昴として、昴になるべく育てられ生きてきた私は、他の生き方を知らない。
一歩外へ出たのは良いけれど、そこから進めなくなって、結局戻ってきてしまった。
この――冷たい洞窟に。
外に出れば、かつての昴として利用しようとするものが手をこまねいて待っている。
だけど、この洞窟自体がそうともいえる。
格子越しに姿の見える心は、『あれ』の手のひらで踊らされていた。
きっと私も、『あれ』の手ごまとして使われるんだろう。
失った。何もかも。
でもその言い方は間違っているかもしれない。
元々『何も持っていなかったもの』が何かを『失う』はずなんてない。
だから私は最初から錯覚していたんだ。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
明。彼女は一人で溜め込んで一人で消化してしまいそうな感じがします。
この子にも幸せな結末を用意したいなー。