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ナビガトリア

視線の先

 すっと細められる紫紺の瞳。
 目の前を見ているようで遠い眼差し。
 それが何を示すのか。気づく者はきっと少ない。

 これでもかと言わんばかりに照りつける太陽。
「こうもカンカンに照り付けられると、雲が恋しくなるわね」
 それを忌々しそうに睨みつけつつ、公女は水筒に口をつける。
 確かに公女が言うようにここはひどく暑い。
 雨期と乾期にはっきり分かれているこの地域で、雲をねだるのは難しい話だろうけど。
「確かに暑いですねー。……ライアン様はお元気そうですけど」
「とーさんは遺跡があれば元気なのよ。本当にいつになったら当たるのやら」
 大仰にため息をつく公女から水筒を受け取り、リュックに収める。
 公女の行動を読んで(まさに文字通りの意味で)、文句が出ないようにきっちりフォロー。
 護衛として働き始めて身に付いた動作も、今は様になっている。
 本当に、昔やってた仕事に比べたら、なんて平和な暮らしだろう。
 ……まあ、今はこんなのんびりしてても、この公女は何かとトラブルに巻き込まれる体質だから。
 この平和もいつまで続く事やら。
「……なんかあたしにとって面白くない事考えてない?」
 ちっ 俺みたいに心が読めるわけじゃないのに、公女はこういう時鋭いからな。
「おや心外な。どうしてそう思われるんですか。こんな忠臣に向かって」
「嫌な電波感じた」
 大仰に嘆いてみせても、ものともせずに両断される。
 しかし電波ときましたか。上手い例えをするなあ。
「ああ。携帯電話からでも電磁波って出そうですもんねぇ」
「ったく。ほんと口が達者よね」
 すっとぼければ、公女も諦め顔で立ち上がる。
 涼しい木陰に立ったまま、遺跡のある方角を見やり。
 まばたきを一つ。それだけで雰囲気が一変した。
 細められた紫紺の瞳は、目の前の光景ではない別のところを見ている。
 距離も障害物をものともしない透視の力。
 公女が何を見ているか、俺にはまったくわからない。
 でもそれは、俺の考えを公女が読めないっていうのと同じ事。
 察する事が出来れば、特に問題なんかないだろう。
 何より俺は護衛なんだから、公女と同じものを見てても意味がない。
 公女が気づかない危険にいち早く気づき、邪魔者を排除する。
 それが、何よりも求められているもの。
 なんだかんだいっても簡単に解雇はされないだろうとは思うけど、ここより待遇のいい雇い先はそうないだろうしなぁ。
 だからこそ有能だって知らしめて、定年まで雇ってもらいたいもんなんだけど。
「結構大きそうな遺跡ねー」
「そうなんですか?」
 紡がれた言葉に意識を戻す。
 公女は逐一言葉にしたほうが考え事がまとまるタイプらしく、こういったときは相槌を打つといいことは経験で知ってた。
「口伝頼りだったけど、あってよかったわ本当」
「公女みたいな力がないと、探すの難しいですからねぇ」
「探し物には向いてるからねーって、かなり苦労させられてるけど。
 見つけたら覚悟してなさいよ」
『……お手柔らかに頼む』
 自身に向けられた宣告に、弱々しく返すアポロニウス。
 このスチャラカ旅の終りも、実はすぐそばまで来ているのかもしれない。
 公女の目にはその『終り』が見えていて、それでこんな事を言ってる可能性もある。
 もっとも、俺にそれはわからないけど。

ナビガトリアで「主と従者」とのリクエストを頂きました。ナビガトリア本編の後半部分あたり。
薄の切り替えっぷりを考えるのは結構大変です。石の人の親父さんは簡単なのに…

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/