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ナビガトリア

必ず守れ

「我、星の定めを担うもの。
 導の添え星にして、闇を彩るもの。
 闇より出でて、其を切り裂くもの」
 朗々とした声が響く。
 反響するのは当然だろう。
 仄かな明かりも、とうとうと水の流れる音もするが、ここは地下なのだから。
 どこからか時折入ってくる風が、壁面のろうそくの炎を揺らす。
 少し視線を下げれば、この部屋の全体像が見える。
 塔の内部のように丸く作られた、大きめのリビング並の部屋。
 床全体に水が張られており、中央の常緑樹の植えられた辺りだけが島のように少し盛り上がっている。
 地水火風。
 四元素をすべて兼ね備えた場所。
 木の下で呪を紡ぐのは、数ヶ月前に十六歳になった少年。
 刈入れ時の麦穂の髪はきれいに撫で付けられ、ローブに身を包んでいる。
 ただし、その色は魔道を示す黒ではなく――雪のような白い色だった。
 彼の前に跪いているのは、栗色の髪の少女。
 いつもポニーテールにされている髪は結い上げられ、しかしその身に纏うはドレスではなく、やはりローブ。
「現世にて常世を想いし人々の末。
 祝福の呪いを受けしものたちの末裔」
 流れるように決められた言葉を連ねる公子。
 凛とした冬の夜の空気。
 それに相応しいほどの厳かさ。
 こんな儀式、そうそう見れるものじゃない。
 しっかりと見ておこうと心に決めて、一言一句聞き逃さないようにする。
 示された選択に、少女は凛とした声で応えた。
「我が命は我が主のために」
 騎士の誓いのような言葉。
 あの時の自分もこう見えたのか。
 息を漏らす事も出来ず、ただただ見続けた。

「いやぁ。極上の芝居のようでしたねぇ」
「芝居ゆーな」
 先ほどの成人の儀の感想。本音の言葉に、何故か反論される我が主。
「いい見世物じゃないですか?」
「六年前に、同じように見世物になってたって理解してるの? 薄」
「はっはっはっ。何を今更」
「……ま、いいけどね。
 これでシオンも無事に成人かぁ」
 言って、満足そうに公女は頷く。
 地下から出て、ホールへの移動の最中。
 皆口々に先ほどの儀式の事を話していて、普段なら絶対に注意される言葉づかいも素のまま。
 良いんですか公女? 後でうるさく言われるかもしれませんよ?
「公女はこれからすぐホールへ?」
「ドレス着替えなきゃいけないのよ。パーティ用のに」
「はあ。女性は大変ですねぇ」
 着飾って花を添える立場っていうのも大変だと心底想う。
 ま、俺は護衛として隠れてればいいんだけど。
「あーでも、思い出すわね」
 しみじみという公女に、何を思い出すかなんて無粋な事は聞かない。
 このタイミングで話すなんて、六年前の自らの成人の儀のこと以外にはありえない。
「やっぱり『剣』と『盾』とじゃちょっと言い回しとか違うのね。
 参考になったわ」
 何の参考なのかは聞かないでおこう。
「ところで薄。覚えてる?」
 紫の瞳を煌かせて問うてくる公女。
 (あたしが何を望み、何を言いつけたか)
 聴こえてくる心の声。
 主と配下の間に交わされる制約の事。
 無論忘れている訳ないから、こう応える。
「もちろんですよ、公女」
「なら、守って頂戴な」
 くすりと笑ってそれだけ告げて、公女はメイドと共に部屋へと戻っていく。
 入れ違うようにしてやってくるのは、赤毛の魔導士。
 何を話してたんだとか、どんな儀式だったんだとか聞いてくる奴を、のらくらかわしつつ、六年前のあの日を思い出す。

『我が剣となるものに、三つの制約を課す。
 ひとつ、命令なき殺生はしないこと。
 ひとつ、敵と認めた相手には全力を持って対すること。
 ひとつ、主が狂ったならば、間違いなく、その役目を果たすこと』

 その制約の内容に、戸惑いを感じなかった訳じゃない。
 一つ目は俺が暗殺家業も請け負う組織に属しているために、わざわざ付け加えられたものだろう。
 二つ目は改めて言われるまでもないことだ。
 そして最後に至っては、もう呆れるしかない。
 冷徹になるどころか、どこまでいっても甘い公女。
 だからこそ、こいつみたいなのに関わって、命がけの旅する羽目になったんだが。
 ちらりと伺ってみても、アポロニウスは気づかない。
 それでも、転職を考えない程度には、やっぱり俺も毒されてるらしい。
 あー。
 本当に護衛ってのは大変だよ。
 さて、新米『盾』の楸様?
 貴女はいつまで頑張れますかね。

らぶく出来そうなタイトルに限って、こういう作品に仕上がります。
シオン成人の儀の一連は、PAメンツで書いていたのですけどねー。
何故か薄が語りだしちゃいましたよ。
宣誓の言葉に、いろんなネタ仕込んでますが……気づいた人は神だとしか。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/