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月の行方

限界

 知らないふりがいつまで出来るか分からないけど。

「なあポーラ?」
「どうしたの?」
 珍しくユーラは言いにくそうに口ごもってる。
 もしかしたら、単に気分が悪いだけなのかもしれないけど。
 船に乗ってもう数十日。
 ユーラは日に日に弱っていくようで、今だって顔色が悪い。
 それでも話が出来るくらいには今日は元気みたいだけど。
「なるべく食べやすいものにしてみたんだけど……食べれない?」
 今日のお昼は変わり映えしないけど魚のスープ。
 身をツミレにしてみたんだけど、やっぱり食欲ないかな?
「そうじゃなくって」
 また言いにくそうに顔をそむける。
 なんだろう?
「いや、その……な?」
 じっと見てると、ぽそぽそと白状を始めた。
「ポーラは、さ。ノクスの事どう思ってるんだ?」
「どうって……」
 一旦言葉を区切って、さりげなさを装って言う。
「お世話になった幼馴染なのに、分からなかったのは悪かったなとか。
 あと、回復魔法使えていいなとか」
「いやそーゆーんじゃなくて。
 ……好きとか、嫌いとか」
 人の言葉を遮ったわりには小さな声でぼそぼそ言うユーラ。
「好きよ? もちろんユーラも、ちょっと苦手な時もあるけどラティオも」
「それはありがとっていうか」
 にっこり笑って言えば、ユーラは安心したような呆れたような微妙な顔をした。
「あーもー、わかってんのかな」
「何が?」
「あ、わかんないならそれでいーよ」
 独り言のように呟いた言葉に問い掛けてみれば、もういいとばかりに彼女は手を振る。
「じゃあ、器は後で取りに来るから。少しでも食べてね?」
「わかった」
 言い聞かせるようにしてから部屋を出る。
 扉を閉めて、少し――ほんの少しの間だけ背を預ける。

『分かってない訳ないよ』
 心の中だけで言う。
『ただ――分かっちゃいけないだけだから』
 この想いを。
 それが何と呼ばれるかを。
 私は『ミュステス』だから。
 一緒にいるというそれだけで、みんなに迷惑をかけている事だってある。
 だから決してこれは表に出さない。
 むしろ大切なものだから、心の奥にしっかりとしまいこむ。
 誰にも触れられないように。
 誰も気づかないように。
 そう――私自身でさえも。

 いつまでも続けられる訳じゃない。
 でも、いつまでも一緒にいられるわけじゃない。
 だから今は――こうするしかない。

おかーさんに似て情熱家なポーラでした。
内に内に溜め込む子なので、爆発する様子を……早く書きたいあのシーンッ!!
気を取り直して。普段のあれこれは『彼ら』が元々長寿(=成長が遅い)なので、心の成長はのんびりなんです。
ポーラの精神年齢はユーラよりもかなり低めです。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/