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どこかとおくで…

地図にない場所

 ここがどこかなんて分からない。
 分かったって、多分どうしようも――ない。

「で、とりあえずこっちのほうには川が続いてる」
「こっちは森だったわ」
 地面に木の枝で描かれるのは周囲の地形。
 ここで暮らしていく以上、必要なものはたくさんある。
 せめてもの救いは、まったくの無人じゃなかった……一からのスタートじゃなく、人が住んでたってことかしら。
「こっちのほうは?」
「そっちはまだ行ったことないの」
 私と清君、氷火理さんと昴さんは一緒に『ここ』にやってきた。
 前から住んでいた――先に『ここ』にきた、桜さんを囲んで五人で作戦会議。

 分かったことはいくつかある。
 桜さんもある日突然『ここ』に来てしまったこと。
 黒髪に黒目のアジア系の人間が珍しいこと。
 『ここ』の住人からしてみれば、桜さんは『カミサマ』の声を聞くことの出来るたいせつな人……らしいこと。

 ――ここが日本じゃないこと。それは確かなのに――

 見上げれば大きな梁。
 テレビや写真集で見るようなかやぶきの家。
 地図を描いてるのは庭先だけど座っているのは縁側。
 食卓に出てくるのは、知らない魚とよく知っている炊かれたご飯。
 ただ、どこかの田舎に体験学習に来ていんじゃないかって、都合のいい錯覚を起こす。

「環ちゃん大丈夫?」
「え?」
 顔をあげると、私のほうを心配そうに見ている桜さんと昴さん。
「あ、大丈夫です」
 表情をつくろってみるけれど、成功してはいないんだろうな。
 二人ともやさしいからそれ以上は突っ込みないけど。
「やっぱりちゃんと調べたほうがいいですよー。
 測量とかは国づくりの基本だって、どこかで聞いたことありますよ」
「どこか、なのか清」
「氷火理……」
 わいわい騒ぐ清君たち。
 きっと、いつかは『ここ』の地図が出来るんだろう。
 地図が出来れは、この不安も消えるのかな。

地味に続いてます。取り留めないだけに余計たち悪いシリーズですが。
未知の場所への憧憬と「知りたい」という知的欲求。
世界のすべてを調べつくして、それでも望む場所がなかったら――

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/