非日常
ぽかぽかと暖かい日の光。
頬をなでる風も優しく、たまに花びらが降ってくる。
気持ちいいなぁ。
川べりに寝転んでいても寒くなくって、たまに聞こえてくるのは子どもの歓声とかチャイム。
なんて平和なんだろう。
普段との違いが良くわかる。
久々の休みで、たぶん最初で最後の兄弟旅行なんだから、楽しまなきゃ損だってエリィは言ってたけど……やっぱり私にはあわない。
こんな風にのんびりと日向ぼっこしてるほうがよっぽど贅沢だし。
エリィに聞かれたら、きっとまた呆れられるんだろうけれど。
せっかくの旅行だからって、遊び倒すことはないと思うんだけどな?
年寄りだの何だのってエリィは言うけど。
この雰囲気がいいっていうのは、私だけじゃないみたいだ。
草を踏む音にほんの少しだけ視線を上げると、空を背負って少女が私を見下ろしていた。
「こんにちは?」
「こんにちは」
挨拶はされたら必ず返すもの。それに、一応見た顔だったし。
さすがに寝転んだままじゃ失礼だから身を起こす。
桜月人特有のぬばたまの黒髪。やわらかな象牙色の肌。
若草色のセーターを羽織って両手には缶を一つずつ持っている。
「ここ、いいですか?」
視線で少しはなれた隣をさすから、どうぞとうなずく。
だってここは川辺の土手で、誰のものでもないし。
ポケットに入れてたハンカチを取り出して草の上に広げてそこに座るように促せば、なぜだかすごくびっくりされた。
やっぱりこことパラミシアとじゃ、風習違うのかな?
見詰め合うこと数秒。
根負けしたのかな。彼女はため息をついた後にようやく腰を下ろした。
「えーと、これどうぞ?」
差し出されたのは右手にもたれたお茶の缶。
わけがわからずに見返すと、視線をわずかにそらされてぼそぼそとつぶやかれる。
「おわびっていうには安すぎるけど」
数日前に踏んじゃったことを気にしてるんだろうか?
「ありがとう」
問い返すのは失礼だと思ったからありがたくいただくことにした。
そのかわり私も紙袋を差し出す。
「おわびのお礼。甘いものは好き?」
少し前に買ったタイヤキ。
さすがに一人で食べるには少し多いから。
そう付け加えたら、苦笑されて。
じゃあいただきますと笑顔をもらった。
知らない鳥の鳴き声。ささやかな川の音。
こんなにのんびりできるのって何時以来だろう?
ちらと隣を伺えば、おなじようにぼーっとしてる……でも退屈はしていなさそうな少女の横顔。
会話はまったくないけれど、この沈黙は心地いい。
ジニアといるときものんびりするけど、こっちのほうが好きかも知れない。
あんまりにもリラックスしすぎて、日が暮れるまでいすわっちゃって。
ホテルに戻ったら、遅すぎるって二人にしかられた。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
エディさんと硝子さん。
この人たちは縁側で並んでお茶をすすっているイメージがあったので、川べりでまったり。
この連作は、一応双子が国に帰るまで書けたらなと思ってます。