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もの書きさんに80フレーズ

昼も夜も

 あ、またいる。
 それに気づいてあたしはほんの少し歩くスピードを緩める。
 足はまっすぐに学校への道筋を進むけど、視線だけは斜め下へ。
 河川敷はなだらかな傾斜になってて、柔らかな風に揺れる名も知らぬ草花。
 昼寝したら気持ちいいだろうなって思う、そんな場所。
 おまけにこの土手には等間隔で植えられた桜並木があるんだもの。
 空気はぽかぽか。桜は七分咲き。
 学校が無かったらって本当うらやましい。
 そんな特等席で寝転んでる人を見ると。
 だんだん歩幅が狭くなったのに気づいて、ほんの少しペースをあげる。
 あーあ、本当に学校がなかったらな。

 土手で寝転んでいるのは、多分二十代前半くらいの男の人。
 少し鈍い色の金髪は、ふわふわで柔らかそう。
 ま、実際物腰も同じくらい柔らかいんだけど。
 言葉を交わしたのは一度だけ。
 しかも、寝てるあの人に気づかず、あたしがおもいっきり踏んづけちゃったときのこと。
 もちろん名前も知らないし、視線があったら軽く会釈するくらい。
 だけど……ちょっと興味はわく。

 どこの国の人かな?
 旅行で来たのかな?
 それとも越してきたばかりなのかな?
 一日中あそこにいたりして。
 朝も帰りもいるし。
 何してる人なんだろう?
 毎日、服は違ってるけど。

 やっぱり訂正。
 ちょっとどころじゃなく気になってる。
 でも、話しかけるのはもう少し勇気がいるかな。
 あんな出会いだったし。

「しょーこってば、今日はいいよね?」
「ごめん。また誘って」
「もー、最近付き合い悪いぞー」
「今度おごるから」
「絶対だからねーっ」
 誘ってくれた文香には悪いけど、寄り道したらあの土手通れないのよね。
 そして今日もあたしは、通いなれた道を家へ向かう。

この機会を逃したら書けなくなりそうなので。シリーズ続いてます。
今回ようやく出てきてくれましたの硝子さん視点で。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/