わざとだ、絶対
昔から。
そう。昔っからこいつらに苦労させられてたんだ。
決して忘れたわけじゃないが、忘れたかったって言うか、年取ってそう騒ぎを起こすこともなくなったから安心してたせいもある。
ため息を押し殺して目の前に並んで座っている……もとい、並んで座らせた双子を見る。
一人は多少反省している顔で、もう一人はしれっとして俺の言葉を待っているんだろう。
「なんでお前たちがここにいるんだーッ」
結局、できたのはそう怒鳴ることだけだった。
「なぜと言われましても」
困った振りして小首をかしげて、彼女は笑う。
「旅行ですわよ? 初めてできっと最後の」
「んなこたぁどーでもいい。なんでここに来たんだっ」
「文通相手がこの町に住んでるだけですわ。
それがたまたまエドの赴任先だっただけのことでしょう?」
「ほー。たまたま俺の赴任先で、俺の生徒だってわけかー?」
んな偶然があってたまるか。
とはいえ、この件でエリィをしぼっても何も出てこないだろう。
仕方なく俺はもう一人に向き直る。
「このお転婆はいいとして、なんでお前までつきあってんだエディ」
「なんでって、エリィが一人旅って危ないし。
兄妹だから一緒に旅したってかまわないだろう?」
「そーいう意味じゃねーよ」
違う違うと手を振ると、しばしエディは不思議そうな顔をして、ぽんっと手を打った。
「仕事ならちゃんと有給とったよ。
旅行なんて次にいつ行けるかわからないから、頑張ったんだ」
「そーいう意味でもなくてだな?」
だめだ……策士なとこもあるエリィと違ってエディは素だ。
こうも単純に『旅行』を楽しんでるこいつを見てると怒れなくなる。
つーか、新米にそんな気前よく有給をやらんでくれPA。
「あ。でもエドが『先生』やってるところは見たいな」
ほわほわと、邪気のない笑みを浮かべるエディ。
……本気でどうしよう?
こいつ、自分の爵位がどういうもんか分かってねーんじゃないか?
「で。何をたくらんでるんだエリィ」
「まあ、企むだなんてひどい。長年の文通相手に会うことがそんなにいけませんの?」
「前科がありまくるからいってんだろうが」
突き放すように言えば、花の笑顔で薄い冊子を鼻先に突きつけられる。
「そうそう。これ、叔母様からお預かりしてきましたの」
にこにこと。こちらはいたって陰謀めいたものを感じさせる笑顔。
この冊子が何かなんて、考えるまでもない。
「まさかこんなところでエドに会えるなんて思いませんでしたから。
これで観光案内は頼めますわね!」
会えると思ってないならなんで預かり物を持ってくるんだ。
「駄目だよエリィ。エドは仕事があるんだから」
違うエディ。問題点はそこじゃない。
「大丈夫ですわよ、にーさま。エドだって嫌なら断りますわ♪」
エリィ手前、覚えてやがれッ
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
旅立った双子は従兄の元へちょっかい出しに来ました。
この時代の苦労人は間違いなくエドことエドモンドさんです。