希うのは
こつんこつんと靴の音が、静かな聖堂に響く。
朝のさわやかな空気を吸い込んで、そこに跪き深く頭をたれて祈る。
――どうか、無事に帰ってきますように――
『ルシア、後は頼んだぞ』
旅に出かけるとき、兄様はいつもそう言って行く。
お仲間と共に行くその表情は、楽しそうで、どこか誇らしげで。
でも、瞳にほんのかすかに、残していく私を心配していた。
心配なのは私も同じ。
『私のことは気になさらないで』
そう送り出すけど。
兄様の無事が気になるから、こうして祈っている。
どうか、無事で。
ここは兄様の帰る場所。
兄様が安心して旅立てるように、私はここを守っています。
そして、帰ってきた兄様からお土産話を聞く事を、とても楽しみにして待っています。
そう、だから。
それが叶わなくなった今。
兄様にかかる負担を、少しでも減らせる方法を。
頭が痛い。
邪魔をするなと、知らない/知ってる男の声がする。
これは、ほんの僅かに与えられたチャンス。
目の前には剣を構えた黒髪の戦士。
この人なら/この人でも。止めてくれる/止められない。
久しぶりに出した、自分の声。
突然の言葉に、戦士は明らかに警戒している。
「手遅れに、なる前に」
もう、もたない……
いつか聞いた/聞きなれた『彼』の嘲笑。
そうしてまた、私は私を見失う。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
飽きもせず、こりもせずに彼らの話で……ルシアで。
優しすぎたが故に、犠牲となってしまった彼女。
白で兄妹揃って出てきてくれたときには、本当に嬉しかったです。