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月の行方

最高の殺し文句

 随分会わなかったうちに、図太くなったものだと思う。

 我のただ一人の相棒は再会を確かに喜んではいたのだが……そこにはかつてのような無邪気な笑みはなかった。子ども子どもしていた体も大分背が伸び、『年頃の』と呼んで差し支えない娘に成長した。
「日影は相変わらずみたいね。
 でもよかった。溶かされて別のモノにされていたらってちょっと怖かったの」
『曲がりなりにも我をなんと心得る?』
「だって本当の姿ならまだしも、普段の日影は古い剣でしょう?
 金属の類は戦時に徴収されることだってあるし」
 悪びれもなく言うことに憤りを感じる。
 どこのどいつだ。天に余計な知識を入れた奴は!

 離れていた時間に何があったかは我も聞かぬし、天も言わぬ。
 ただ……様々な事がありすぎた事だけは良く知っている。
 そんな風に思案に暮れていると何者かの気配を感じた。
 案の定間をおかずに女が一人、部屋に入ってきた。
 目立たぬ色の衣服の浅黄色の髪の女。
 手には大きな荷物を抱えている。
 女は天を見ると微笑んで。
「末姫様只今戻り……なんですか? そのなまくら剣」
『なまくらッ?!』
 この我をなまくらと申すか?!
 あの餓鬼どもといい、近頃の若者はまったくなっとらん!!
「えーと……私の相棒なのでそういう発言は」
「姫様の相棒……で、ございますか?」
 不思議そうに言う女。
 天の乳母だろうか?
 相棒という意味が分からぬのだろうが……仕方ないと割り切れるほどに、我は人間が出来ていない。
『天っ 名乗れ! 名乗ってしまえ! 非礼をわびさせろ!!』
「能登もお疲れ様。本当に無事で何よりです」
 無視かっ
『天!』
「この程度の事ならどんどんお申し付けください。
 あ、美味しい瓜が手に入ったんですよ。夕餉を期待してくださいませね」
 にっこりと笑って手にした荷物を抱えなおし、能登と呼ばれた女は別室へと遠ざかっていく。
『てーんー』
「駄目ですよ日影。そんなこといったら」
 恨めしそうに言えば、逆に咎められる。
「ばれちゃいけないって言ったの、日影でしょう?」
 確かに以前そう言った事はあるが……それでも言われたくない言葉というものはある。
 我にはそれが『なまくら』で、天のそれは『雪女』だ。
 全体的に白いからそう思われるのは仕方ないだろう。
 客観的に考えて、吹雪の夜に天が戸口に立っていたら我でも少々肝が冷える。
「どうかした? 日影」
 まろい笑み。やわらかな口調。
 そういうところは変わっていないのに……
『それはこっちの台詞だ。天こそどうした?』
 我の言葉に天は大きく目を見開く。
「うん。ちょっと、いろいろあったから……」
 そうしてまた淡く微笑む。泣くかわりに笑っている……そんな感じで。
「聞きたい?」
『聞いてやらん事もないぞ』
 そう応えれば、今度は困ったようにくすくす笑う。
 聞きたいのではなく、話して欲しい。我の真意が伝わっているからそうやって笑う。
「うん。やっぱり日影だ」
『どういう意味だ、それは』
「日影がいてくれてよかったなって」
 邪気なく微笑む天。
 いつもこうだ。
「うん。だいじょうぶ。まだ頑張れるから」
 吹っ切れたように笑う天。先程までの瞳の翳りは今はない。
「日影がいるなら言い訳は出来ないけど……絶対負けない。
 私たちが揃っていれば最強だもの。ね、日影」
 無条件の信頼。それが我にとってどれほどの効果を示すが知らぬだろう。
『無論だ。我らが負けることはありえない。
 分かっているならさっさと状況を話せ』
 そう尊大に返す事でしか、我は応じる事は出来ないが。

『時に天』
「はい?」
『先程のような言葉は滅多に口にするでないぞ。
 特に男に関しては』
「? そーなんですか?」
『そうだ。
 勘違いする奴は多いし……男という生き物は本当に』
 ぐだぐだと続く愚痴はもう慣れたもの。
 とはいえ、昔何があったんだろうという疑問はいつも解決しないのだけれど。

日影から見た「天」こと現。小さいころから強く在る事を望まれて、強がる事に慣れてしまった彼女が弱音を吐けたのはごく僅かな家族だけ。その例外が「日影」。
改めて言いますが「日影」は女性です。
元は人で「氷火理」といいます。(ええ。「どこかとおくで」のあの人です)
男に酷い目に合わされたというより、かつて組んだ「天日」にだらしがない奴がいたという設定です~。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/