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ナビガトリア

契約の果て

 覚悟はあった。その任に着いた時から。
 だから――自らの仕事を成すだけなのだ。

 耳障りな哄笑。
 トーンが違うとこうも下卑たものになるのか。
「あらぁ。逃げるのはもうお終い?」
 媚びるような甘ったるい声でソレは笑う。
 無意味に露出の激しいドレス。やたらと濃く施された化粧。
「大人しく降参したらぁ? あなた、使い勝手よさそうだし」
 助けてあげなくもないわよと、言葉面だけは懐かしいものを吐く女。
「生憎、主の好みはうるさくってね」
 やれやれと困った顔を作る。
 昔は『仕事』時にこんな小芝居したことないのに。
 なんだかんだいいつつ、俺はかなり毒されていたらしい。
 肩をすくめておどけて見せると、先ほど術を食らった左肩がうずいた。
「薄!」
 怒鳴るアポロニウスの声には懇願が色濃く滲んでる。
「お前今本気でっ」
「洒落や酔狂で敵うか」
 一言でばっさり切り捨てて『敵』を睨む。
 そんな俺の視線を追うようにアポロニウスも目をやり、うなだれて低い声で言う。
「あれは――コスモスなんだぞっ」
「そうだな」
 なんでもないことのように返す。――表面上は。
 内心は腸が煮えくり返るという表現が正しいだろう。
 とにかく俺は怒っていた。いろんな相手に対して。
「今なら許してあげるわよぉ? だから、言う事をお聞きなさいな、ススキ?」
「なんで言う事を聞く必要があるんだか?」
「あら。ご主人様の命令よぉ?」
「舌噛んで死ぬでしょうねえ」
 本当の主なら、今の姿を見たら、間違いなく。
 確信を持って言う。
 刈り入れ時の麦穂の髪、心までも見透かすような紫の瞳。
 『それ』は確かに主の形をしていた。
「従いなさいススキ。何も考えなくていい、ワタシの言うことさえ聞いていればいいの」
「だから従う理由も義理もないって言うのに」
 ホトホトあきれ果てた振りをして隙をうかがう。
 一瞬。
 それだけの隙があれば首を掻き切ってみせる。
 もっとも……アポロニウスが邪魔をしなければの話だが。
「操られているだけだ」
「乗っ取られたって言うだろ、あれは」
「まだ助けられる!」
「なら何で今すぐそうしない」
 言葉遊びを繰り返す気は毛頭ない。
 だが、彼はそれでいい。
 『盾』は主を守るものだから。
 そして……俺は『剣』。主の敵を討つもの。
 砕かれて破片になろうとも、屈するか。

 『盾』は主を想い、その身を護り。『剣』は主を想い、その意志を守る。

操られヒロインと化したコスモスと、彼女をめぐる薄とアポロニウス。
ありえるかもしれない未来の話。

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/