硝子越し
「ですから! 何とかならないんですか!?」
大きな音を立てて机がたたかれる。
叩いたほうも痛かったのか、すぐさま両手をさすっていたが。
「いきなりそう言われても何の事だか分からないのだが。
ちゃんと説明してくれるかね、シラー君?」
私の言葉に相手――シラー教官は少々バツの悪い顔をした後に続ける。
「ですから、彼らです。チーム・アルブム」
「彼らがどうしたのかね?」
あえてなんでもないことのように答える。
なぜなら、アルブムに関して言えば問題ごとを起こすことなど日常茶飯事。
いまさら何があったというのだろう?
「凶悪犯を逮捕したというではないですか」
「ああ……その件か」
うんざりとした顔で答えざるを得ない話題だ。
眼鏡をはずして時間をかけて拭く。
「あれに関しては運が良かったとしか言いようがないな」
「なぜ運がいいなのですか?!」
「凶悪犯逮捕は我らが使命。
しかし、そう。今回に関しては巻き込まれてずるずるといった、というところだ」
「そうおっしゃいましても!」
情けない声を上げて、シラーは口をもごもごさせる。
たぶんマスコミがどうこうと言っているのだろう。
ここ十年近く我々は凶悪犯を逮捕できていない。
今回の逮捕劇を宣伝したいのは山々だが……『未成年』が逮捕した、というのはマズイ。ただでさえ彼らを危険な現場に放り込んでいるということで世間の目は痛いというのに……
「どこからかマスコミがかぎつけるのも時間の問題では……?」
「それに関しては、うちだけでなく他からも圧力がかかるだろう」
何せかかわっている人物が人物だ。
その点に関しては安心できるともいえよう。
不承不承ながらも納得させてシラーを追い出し、大きく息を吐く。
禁煙してずいぶんたつが、こういうときにタバコが欲しいと心底思う。
エドワード先輩はすごいと思っていた。
実績もあるし性格も良い。
だというのに、上層部からは手に負えないと言われていた。
今ならそれが良く分かる。
『憧れ』という色ガラスを通して見るのとは違うのだ、と。
お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/
一番苦労している団長さん。
どこかの工房長のようにならないようにお気をつけて欲しいものです。