1. ホーム
  2. お話
  3. 月の行方
  4. 名前を呼んで
月の行方

名前を呼んで

 そのことに気づいたのはいつだったろう?

 戦闘になると、術士の私はどうしても後衛になって、ユリウスやユーラのサポートに徹する事が多い。
 ノクスはそんな私の近くにいて、いつでもどちらのフォローができるようにしてる。
「っつあ~」
 ぶつけた腕をさすりながらうめくユーラ。
 そんな彼女に呆れながらも回復魔法をかけるのはいつもノクスの役目。
「いくら攻撃は最大の防御ってても、避けるなりなんなりしろよ」
「うっせーな!」
「大体ユーラは力で押し切るタイプじゃねーだろ」
「ぐううううっ」
 ぶつぶつ言いつつも彼はよく世話をしてくれている。
 ユーラの無茶は私もよく知っていたから、ノクスがこうやって傷を癒してくれるのは本当にありがたい。
 いつも歯がゆい思いをしていたから。私は、回復魔法を扱えないから。
 でも気になっているのはそのことじゃなくて。
「ま、こんなとこか」
「……ありがと」
 ぶすっとした顔ながらも礼を言うユーラに、もう慣れたように苦笑を返してノクス。
 彼が次に言う言葉も、いつもおんなじ。
「ユリウスは怪我は?」
「していない。それよりも先を急ごう。
 早くしないと日が暮れてしまう」
 ユリウスの言葉にユーラが頷いて歩き出す。
 ノクスも続いて歩こうとして。
「何してんだ? 行くぞ」
 そう、私に問い掛ける。本当に不思議そうな顔で。
 何も言わずに見返したら、ちょっと困ったような顔をしてこちらに手を差し出した。
「ほら。早く」
 そう言って急かす。
 違うのに。欲しいのは、気になっているのはそんなのじゃなくて。
「ノクス酷い」
「は?」
 気づけば口に出していたその言葉に、思いっきり虚をつかれた顔をする彼。
 私はと言えば、言っちゃったものだからもう引っ込みがつかない。
 あえて挑戦するように視線を合わせて言う。
「どうして名前で呼んでくれないの?」
 少し拗ねた感じになってしまったと、自分でも思うけど。
 でも私の言葉にノクスはしばし呆けたかと思えば、困惑した顔で。
「……呼んでないか?」
「ない! 『おい』とか『お前』しか言わないもの!
 ユーラもユリウスも名前で呼ぶのに!
 なのに私だけどうして呼んでくれないの?」
 私の剣幕に驚いたんだろう。びっくりした顔のノクスに言い聞かせるように言う。
「名前はもっとも短い呪。その人を表す大事なものなのよ」
 だからちゃんと呼んで欲しい。
 私は『おい』とか『お前』じゃないもの。
 アースだって名前をないがしろにしたら凄く怒ってたもの。
「ならそうホイホイ呼ぶ事も」
「屁理屈言わないの!」
「あのなぁ」
 呆れたように言うノクスだけど、私別に悪いこと言ってないもの。
 でもいくら睨みつけてもノクスは口を開いてくれなくて。
 なんで呼んでくれないの?
 ……私が忘れてたの根に持ってるのかな。
 それを言われると、本当に悪いのは私なんだけど。
 気づいてしまったら目をあわせていられなくて、ぷいと視線を逸らす。
 先を行っていたユーラたちの後を追おうとして。
「ポーリー」
 その声に思わず足が止まった。
「へ?」
 自分でも呆れるくらい気の抜けた声が口からすべると、ムッとした顔でノクスが応じる。
「呼べっていったのお前だろ」
「え。あ、その……」
 なんでかしどろもどろになっちゃう。
 うん。確かに名前で呼んでっていったのは私だし、ノクスはそれに応えてくれただけなんだけど。
 あ。そっか。
「ずいぶん懐かしい呼びかたされたから、ちょっとびっくりしちゃった」
「そうなのか?」
 疑問の声に頷いて、今度は二人揃ってユリウス達の方に歩く。
「だってポーリーって呼んでくれるの、アースだけだったもの」
「なんか言ってたな。そういえば」
 昔の事を話せる相手がいるって結構嬉しい事なんだ。
 ユーラも幼馴染といえば幼馴染だけど。
「今日って新月よね?」
「ああ。……ってまた寝らんねーのか」
「う。それもあるけど。
 星見るんでしょ? 一緒に見ててもいい?」
「……観測中に眠らないんなら」
 困ったように呆れたように。
 でもどこか拗ねたように応じてくれる彼の姿は昔にも見たもので。
「ありがと、『ルカ』」
 だから。昔の呼び名がすんなり口に出せた。

何故にこの二人が出ると……出るとこうも少女マンガ率が高まるのか?!(除く二次創作)
さりげなくポーラ一人称って滅茶苦茶難しかったです……

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/