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だから言ったのに

 仰げば、どこまでも高く澄んだ冬の空。
 俯けば、寒さに耐える深い土の色。
 視線をまっすぐに戻せば、時を感じる大きな幹と、常緑樹の緑。
 今、踏みしめている石畳も、永い時を経ているというのに、苔一つ生えていない。
 自然のままにされているようで、実はこまめに掃除されているのは知っていたけれど。
 ため息は白く、冬の寒さは流石にきつい。
「梅桃!」
 慣れた呼び声に振り向けば、見慣れたローブではなく、少々身の丈にあっていないコートを来たシオン。
「何?」
「何じゃないだろ。
 まあ、カクタスじゃないから大丈夫だと思うけど、森には入るなよ」
「入らないわよ」
 ひょいと肩をすくめると、それもそうかと返してシオンは笑う。
 丈が合っていないのはコートだけで、下に来ているスーツはちゃんとサイズは合っているし、同じ年とは思えないくらいきちんと着こなしている。
「いいの? 主役がこんなとこにいて」
「……始まる前からヤなこと言うな。
 明日から何日さらし者になるんだろうなぁ」
 とほほと言った感じで遠い目をする。そんな姿は見慣れたものだけど。
 それでも、シオンは公爵家の人間なんだ。
 成人の仲間入りといわれる儀式を済ませたから、急に馴れ馴れしく出来なくなる訳じゃないし、同じ仕事についてる限りはきっとチームを組んでいくだろうけど。
「シオーンッ」
 半泣きで駆け寄られて、シオンは露骨に嫌そうな顔をする。
 泣きついてきたのは当然カクタス。
「どこなんだよここッ
 というか、もう帰りたいんだけど?!」
「何度も言うがここは俺の家で、弟子として部下としてパーティには出席してもらうからな」
「家って城じゃないかーッ」
 カクタスの絶叫が示すとおり、振り向けばそこには大きな、明らかに歴史ありそうな白亜の城。
 小さい頃に立派に見えたものは、成長してから見ると見劣りがするって言うけれど……相変わらずというかなんと言うか、ここはきれいだと思う。
 森の緑と空の青に映える柔らかい白。
 歴史を聞けば萎縮してしまいそうなくらいの場所だけど、圧倒されるような事はない。
「もう帰るすぐ帰るとっとと帰るーッ」
「勝手に帰ってもいいけど、探さないからな」
「噂知らないわけじゃないでしょ?」
 突き放すシオンと私の言葉に、カクタスはぴたりと足を止めてがっくり肩を落とす。
「あの噂って本当?」
「不本意ながら……『ステラの森は迷いの森』は紛れもない事実だ」
 キッパリ言い切られて、今度はカクタス地面に座り込む。
 この程度でへこむようじゃ、ここの一族と付き合えないのに。
 城の周囲を囲み、島全体を覆う森は、『迷いの森』の名に似合わず、深い暗い森じゃあない。言うならば、神社の杜とか里山といった雰囲気。
「なんで迷いの森なんか作るんだよっ」
「いや、昔はただの森だったんだけどな」
「そうよ。そうした張本人が」
 顔を見合わせて頷きあう私たち。
 それで察しがついたのか、カクタスは三度うなだれる。
「……橘か」
 今ここにいない楸のせいで、この森が出来上がった。
 そんなこと言えば、たいていの人は笑い飛ばすのだけど……カクタスは身にしみて彼女の迷惑製造機ぶりを知っているから反論しない。
「ほら、そろそろ中に戻るぞ。お昼だって」
「へーい」
 言うだけ言って、シオンはそのまま踵を返す。
 迷いなく足を進める師匠とうなだれたままの弟子。なんて面白い好対照。
 確かに、普通に生活してたらこんな目に会う事はないだろうけれど。
「うっうっ。何も知らなかったころに帰りたいよう」
 そう言って嘆くカクタスに、私は止めの一言を。
「だから楸が言ってたでしょ? イヤでも信じざるを得なくなるって」
 予想通り。地面に突っ伏したカクタスを満足に眺めて、久しぶりの『友達の家』に入っていった。

梅桃一人称でお送りします。
シオンの成人の儀関連でずっと続いてますね、このお題のPAは。
となると……シオン一人称の時はやっぱり儀式最中を書くか?

お題提供元:[もの書きさんに80フレーズ] http://platinum.my-sv.net/