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  4. 100のお題:指令編 071~080
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071:一気に飲め。

「はいグラス選んでー」
 おぼんにグラスを五つのせて、上機嫌で言う楸。
 グラスには同じ分量のにごった緑の液体が入れられている。
 あやしい。凄く怪しい。
「今度は何した?」
 不信感たっぷりのシオンの言葉ににぱっと笑って。
「指令の一環だよ~。
 一気飲みっていったら、やっぱりなんかないとつまんないじゃない?」
 それはお前だけだとそう言い切れないことが悔しい。
 一気飲みをしろという指令が来た時点で、この機会に何をしてかすやら分からない人物の筆頭である梅桃の動向には細心の注意を払っていた。
 それ故に楸のほうにまで手が回らなかったのが敗因か。
「これね。四つはただの野菜ジュースだけど、一つは青汁だから。
 さ~頑張って一気!」
 どーぞと差し出す楸に対し、誰一人として手を伸ばそうとはしない。
「あたしは残り物で良いからハイどーぞ」
 再び差し出すものの、反応は同じ。
 思っている事は多分皆一緒。仕方なく代表してシオンが問い掛ける。
「本気で青汁なんだろうな」
「んーん。賢者様特製青汁。
 飲むと魔力が上がるけど滅茶苦茶苦いって言ってたー」
「……また師匠が関わってきてるのか」
 ふるふると首を振りつつ楸。重いため息をつくアポロニウス。
「本っ当に賢者様のお墨付き? 変なもん入ってないだろうな」
「入ってないよ~」
 未だ疑わしげなシオンに心外そうに楸が言う。
「変なもの入れて、万一しーちゃんにあたったら大変だもん~。
 そんなことになったら『何のための盾だー』ってみんなから怒られるもん。
 だからゆすらちゃんはてってーてきに排除してたんだよ~?」
「信用ないわね」
 梅桃の抗議を受け付けず、楸はさらに言い募る。
「ただ、本当に苦くて苦くて仕方ないっていうのは聞いたー。
 個人差はあるけどその分効き目もすごいんだって~。
 ただの罰ゲームじゃ無しに、パワーアップも出来るんだからいーでしょ?」
 それでも納得できずにアポロニウスを見るシオン。
 賢者の弟子ならその薬について知ってるかもしれないし、もしかしたら飲んだことがあるかも知れない。
 視線を受けてアポロニウスも言う。
「聞いたことはある。飲んだことはないがな」
「んじゃまあいっか」
「あ」
 どうせこれを引っ込めるという選択はないのだろうし、適当なグラスをとって一気に飲み干す。
 思ったよりどろっとしてなくて、野菜臭さもほとんどない。
 リンゴやレモンなんかがたくさん入ってるんだろうなと思うくらい甘い。
「野菜ジュースだった」
 けろっと言ってグラスを戻すシオン。
 それを見てアポロニウスと梅桃もそれぞれグラスに手を伸ばした。

072:迷え。

 さて、どうするべきか。
 カクタスは考える。
 おぼんに残ったグラスは二つ。
 自分と、残り物をとるといった楸の分。
 梅桃もアポロニウスも野菜ジュースを引いたから確率は五分。
 普通ならば野菜ジュースを当てたいところだが、どうやら青汁のほうには魔力アップの効力があるらしいし。
「う~ん」
 唸ってグラスとにらめっこ。
 もう何分経っただろうか。
「かーくんまだー?」
「どっちでも良いじゃないか」
「野菜ジュースで何もないより魔力アップを狙った方が良いんじゃないの?」
「水は用意してあるぞ」
 急かす声やよく分からん声援を背に、それでもカクタスは悩み続ける。
 自分はこのメンツで一番魔力が少ない。
 梅桃の魔力量はカクタスよりやや多い程度だが、コントロールが上手く無駄が少ないため魔導士としては上になる。
 最近入ったアポロニウスは機械文明のほとんどなかった時代の人間故にか強い魔法を軽々操る。
 魔導士としての楸のウデは知らないが、精霊術士としてはかなり優秀。
 シオンに至っては比べる事すら間違っている。
 そんな仲間に置いてけぼりにされないためにもやはり青汁を狙う方が良いのか。
 しかし、すっごく苦いと言うし……

 結局カクタスは三十分も迷い続ける事になった。

073:敵を一掃せよ。

 目を開ければそこは湿った洞窟の中。
「うわー。ほんとのほんとに洞窟みたい~」
「さすが団長たちねぇ」
 洞窟のできばえに楸も梅桃も感嘆の声をあげる。
 本当の洞窟ではなく、これは幻。PA内部の実力テストのようなもの。
 実戦からあまりに遠のくと勘が鈍ってしまうために、こうやって結界の中の幻で鍛錬をする事が決められている。
「で、ここにこのままいて良いのか?」
「そう。向こうから来てくれるから」
「今回はなんのモンスターだろうねぇ」
 いつもと変わらぬ楸の口調。それが少しわくわくして聞こえるのは気のせいだろうか。
 期待に応えてか、洞窟の奥にうごめく影。
 一定以上のダメージを与えれば消える、幻の敵。
「さて、頑張ろうか」
 杖を手にしてシオンがそう告げた。

 ひらりと結果が書かれた紙が宙を舞う。
 それを拾い、槐は感嘆の息をつく。
「まーたレコード出しましたねぇ」
「本当に。彼らが後少し早く生まれてくれてればなぁ」
 相槌打ちつつ団長は深い深いため息をつく。
 幻と言えど竜牙兵三体にトロル一体を軽くのしてしまっているチーム・アルブム。
 とっとと実戦投入しておきたいところだけれど、生憎世論がそれを許さない。
「というかこのレベルで一分きりますか。本気でもったいないですね」
「十八になれば普通に凶悪犯追わせてもいいだろう。
 それまではここで技を磨くことに専念させるしかあるまい」
 そう槐に告げるものの、団長自身後二年という月日がとてもとても長く感じた。

074:部屋にこもれ。

「こもれったってなぁ」
 困った顔でぽりぽりと頭を掻くシオン。
 自分達は学校があるし、そうそう篭ってはいられない。
 となるとこの任務の標的は。
「てなわけで、アポロニウス頼む」
「篭るだけで良いのか?」
 聞き返すものの、ただ部屋に篭るだけと言うのは結構辛い。
 魔道書やなんやらを持ち込んで勉強に専念するかなと考えをめぐらせていると。
「そーゆーわけにもいかない。時間が惜しいから指令の続きも出来る限り頼む」
 わしゃわしゃと手際よく食器を洗いながらシオンが言う。
 朝食は出来れば食堂で食べたいのだけれど、通学時間を考えるとそうも言ってられないときがある。
 今日などはその典型。さぼりまくっている代償として早朝に補習をやる事になっている。
 放課後に居残ることが出来ないからとはいえ、あまり早起き過ぎるのはつらい。
 補習は七時からで今は六時。
 あと十分もしないうちに寮をでないとバスに間に合わない。
 シオンと同じように準備の出来ている梅桃は片付けの手伝いをしているが、残る二人はばたばたと準備に追われている。
「ゆすらちゃんゴム知らない~?」
「テレビの上は?」
「あれは赤でしょ~。黒のやつ!」
「洗面所は?」
「あ! 探してみるっ」
 そんな二人を呆れてみつつ、ぬれた手を拭いてシオンはエプロンを外す。
「そーそーアポロニウス。篭るのはリビングな」
「なんでだ?」
 部屋に篭ると言えば普通は自室。それが何故共有スペースのリビング?
 確かに誰もいないなら、どこに篭っていもいいのかもしれないけれど。
 不思議そうなアポロニウスに、ちょっぴり視線を外してシオンが答える。
「いや、世話してもらわなきゃなんないし」
「世話?」
「おはよー」
 不思議そうなアポロニウスの声に被さったのは、寝起きのくぐもった女性の声。
 よろよろと歩いてくる彼女を指差し、よそ行き笑顔でシオンは言う。
「知ってるかもしれないけど寝起きはすっげー機嫌悪いから」
「ちょっとまてシオン。お前の姉だろうが、何故私に押し付ける」
「うわ時間がッ じゃあいってきまーす!」
 そうして白々しいまでの態度でシオン達は学校に行ってしまい、残されたアポロニウスは厄介な一日を過ごす事になる。

075:大概の事は許せ。

「ふーんなんか大変ねー」
 まだどこかぼけーっとしたままのコスモスが、淹れられた紅茶を飲みつつ指令の書かれた紙を読む。
「篭るっていうと一日くらい? 暇そうねー」
「そうでもない。っていうかまだ眠いのか?」
「ちょっとー」
 コスモスとの付き合いはかれこれ三年以上になる。
 間延びした物言いをするときは寝ぼけている時か眠い時。
 そしてそれはいろんな意味で彼女が危ない時でもある。
「にしてもちゃんと客室はあるだろう? なんでシオンの部屋に泊まるんだ?」
 コスモス相手に客室が用意されないはずがない。
 もっとも客室数が限られてるし、シオンが自由に使える部屋も数室あるから、もしかしたら空いてる所を使っているのかもしれない。
 そういえば空き部屋がいつの間にか改造されてたとかシオンがぼやいて様な気がする。
 アポロニウスの方を見ずにふわぁとあくびをするコスモス。
「まーた前みたいに襲われたんじゃかなわないから。
 会った事のない相手よりシオンのほうが安心できるし、実力だって多分あるし。
 何より弟のものは姉のもの。ここにいればネコ被らなくっていーし」
 紅茶を飲み干し、満面の笑みで言う。
「あたしも暇だし。篭るの付き合ったげる♪」
「力いっぱい遠慮する。観光でも何でもして来たらどうだ。写本のバイトはどうした?」
「バイトはしばらく休みで外出禁止なのよ。暇なんだから付き合いなさい」
「外出禁止?」
「そう」
 こくこくと頷き口を尖らせる。
「同窓会っていうか、同窓旅行なのよ薄が。
 昨日の夕方出発して明後日まで帰ってこないの」
 言われて辺りを伺ってみる。確かにいつも隠れている薄の気配はない。
 そう言ってもここで隠れている事はほとんどないのだけど。
「護衛がいないからシオンのところに転がり込んだのか?」
「そーゆーこと。薄にもたまには休みあげなきゃね。
 その代わりその間あたしは外出禁止で暇なの。てなわけで暇つぶしに付き合いなさい」
 にっこりよそ行き笑顔で指令の紙をひらひらさせて言うコスモス。
「『大概の事は許せ』でしょ? 大概の事よね。じゅーぶん」
 あくまかこいつは。
 声には出さない。出すとどんな無茶難題を言われるか分からない。
 『指令』という大義名分を盾にして。
「とりあえず紅茶のおかわりいただける?
 朝ごはんってどうしてるの? 勝手に冷蔵庫の中使っちゃっていいの?
 あ、食後にもお茶欲しいわね。お茶請けとかってあるかな?」
 早速といった感じで矢継ぎ早に質問やら要望やらを述べるコスモスに対し、ため息つきたいのをこらえて、紅茶のおかわりを淹れるべくアポロニウスは立ち上がった。

076:負けるな。

 ほぅとコスモスの唇から吐息が洩れる。
「ん。もうちょっと強く」
 ため息尽きたいのをこらえて要望どおりに力をこめる。
「痛っ 強すぎ! もっと優しく!
 って何もっと強く押してんのよっ 痛い痛いってばっ」
 騒ぎ立てるコスモスを無視してしばらく力をこめて押す。
 怒りたいのはこっちの方だ。何くれと注文をつけて。
 とはいえ彼女をあまり怒らせると、魔法が飛んでくるかも知れないので適当なところで切り上げる。
「……なんかいじめられてる気がするわ」
「それはこっちのセリフだ」
 ぶすっとしたコスモスのセリフに応じるアポロニウスの声音も不機嫌。
 朝食は……まあ本人が作ったから良いとして、食べ終わったと思ったら「肩がこってるから揉んで」とか言ってきた奴が何を言う。
 言葉は一応お願いの形をとっているが、指令をちらつかせていては命令と変わりない。
 ここまでほぐれるのにかなりの時間を要したのは確かだから、かなりこっていたのは事実だろう。
「もう揉まなくていいから、さすって。
 なんか急にやめると揉み痛みがあるとかって聞いたから」
「まったく注文が多いな。どこのお姫様だ……って姫だったな、そういえば」
「そういえばとは何よ。そういえばとは。
 まがりなりにも公爵家の娘捕まえて」
 憤懣やるせないといった口調で手を伸ばしてテーブルの上のカップをとり、紅茶を飲む。
 ……人に肩を揉ませておいて、随分優雅な事。
 こちらが黙っているのをいい事にお茶請けのクッキーにまで手を伸ばしている。
「姫君にしては無用心すぎると思うがな」
「…………何が?」
「あのなあ」
 返事までに間があったのはクッキーを食べていたからだろうか。
 呆れたようなアポロニウスに小首をかしげてコスモスは言う。
「とりあえず命の危機はないと思うけど」
「そうか、真っ先に心配するのはそっちの方か」
 なんだか脱力してしまうが、それでもやっぱり言うべきだろうと判断してアポロニウスは説明する。
「男と部屋に二人きりという状況で肩なんか揉ませるかということを言いたいんだが」
 つまり、今のこの状況。
 よほどアポロニウスを信頼しているのか、それとも男扱いしてないのか。
 ……もしくはその可能性をまったく思いついていないのか。
「ああ」
 この反応からするに、最後の考えが当たっていたようだ。
「なーに? なんかやましいことでも考えてた訳?」
 いつもより少し低い声には緊張の色は混ざっていない。
「それならこっちにも考えがあるけど?
 ある事ない事お師匠様に吹き込んでやるけど?」
 思っても無い事言うんじゃないと言った感じの呆れと、反応を楽しむような声音で続けられた言葉にアポロニウスは嘆息する。
「そういう報復が分かりきってて手を出すか」
 一言反論すれば二言三言返って来る。
 口で適う訳がないのは分かっている事だけど。
 また一つため息を飲み込んでアポロニウスはコスモスの肩をさすり続けた。

077:隠し通せ。

 お茶は美味しいし、天気がいいし、窓から入ってくる風は暖かくて気持ちいい。
 でもそれだけじゃなく、とっても気分がいいのは何でだろう?
 自分で動かなくても世話焼いてくれる人がいるからとか?
 ちらりと隣のアポロニウスを伺うものの、彼の関心はもっぱらテレビにいってる。
 ニュース終了後に始まった朝の連続ドラマ。
 観るのはほぼ初めてだから内容が把握できない。
 ま、真面目に観る気も無いからいいけど。
 暇は暇だけど肩は楽になったし、テレビに集中している彼の邪魔をする気は無い。
 でも気になるのはこの開放感。
 何でこんなに気が楽なんだろうと思ってみれば、薄がいないことに気がつく。
 他人の心を読む事が出来る彼の存在を疎ましく思った事もしばしばあるが、やっぱり無意識にストレスはたまっていたらしい。
 こんなこと、やっぱり本人には言えないから隠すしかないんだけど。

 まだ少し眠いのか、コスモスはいつもに比べてボーっとしている。
 ただ視線はずっとテレビのほうをむいていて、チャンネルを変えていいものか迷う。
 でもテレビに集中しているなら好都合。
 彼女を刺激しないように慎重に作業を繰り返す。
 音を立てないように手で破いて細かくしてくずかごへ。
 お茶請けにと出した、クッキーの入っていた箱の証拠隠滅。
 食べさせたはいいものの、『しょうみきげん』が三日ほど過ぎていた。
 『しょうみきげん』は多少過ぎていても食べられなくなる訳じゃないとは聞いていたのだけれど、嫌な予感がするからやはりさっさと痕跡は消してしまおう。
 そうしてアポロニウスは慎重に作業を進めていった。

078:カレンダーに印をせよ。

「印ねぇ」
 呟いて、リビングにあるカレンダーを眺めるコスモス。
「印って言うか、予定の書き込み凄いわねぇ。
 明日は知恵者の塔で二時間の講義。次の水曜日は追試?
 ……仕事と学業の両立って大変そうね」
 しみじみ呟いて弟達の苦労を思う。
「受験日に丸つけとこうかな。
 ……カクタス君、だったかな? あの子も受験するんでしょ?」
「ああ。検定か」
 新聞から顔を上げつつアポロニウスが応じる。
 なんだか醸し出す雰囲気がすっかり休日のお父さんっぽい。
「六級を受けると聞いているが……いつだったか?」
「再来月の八日。まだまだ先と言えば先なんだけどね。
 準備怠ってるとあっという間に来ちゃうし」
 頑張らないとねぇと自分に言い聞かせるようにうんうんと頷くコスモス。
 かくて、予定だらけのカレンダーにまた一つ印が増えた。

079:推理しろ。

「そろそろちゃんと復習しようかなぁ」
 その言葉にアポロニウスは新聞から顔を上げて、そう呟く彼女を見る。
 先ほどまで話していたのは検定の話。
 ということは。
「もしかしてお前も受けるのか?」
「あーうん。受けざるをえなくなったって言うか……ね」
 嫌なことでも思い出したか、苦い顔で応じるコスモス。
「写本するのにも級は上のほうが良いし、何より本当に規定変わってペーパーテストだけになっちゃったから、受けろって周りがうるさくって。
 持ってて損は無いだろうから別に良いけど」
 彼の向かいの席に座って、文句を述べてため息を漏らす。
「流石に楽勝ってわけじゃないから、問題集とかやったほうが良いかなーって」
「何級受けるんだ?」
 問いかけに、面白くなさそうな表情のまま行儀悪く頬杖ついて答えるコスモス。
「三級よ三級」
「そうか」
 何か考えるようなしぐさをして、アポロニウスはテレビの横の雑誌置き場から一冊のノートを持ってきた。
 そこには見慣れた字で『練習問題』と書かれていた。
 コスモスが不思議そうに見返すと、少し決まり悪そうに視線を逸らせて。
「私も三級を受けるんだが」
「あ、そうなんだ?」
 アポロニウスの魔法の実力の程は分からないけれど、表情を見る限りどうやら苦戦しているらしい。
 文字が読めなくて問題が分からないって言うのが一番ありそうだけど。
 プライドが邪魔して言いにくいのか、あーだのうーだの続けるアポロニウスに苦笑しつつ問い掛ける。
「じゃあせっかくだから勉強する?」
 ぴくりと肩を震わせて、申し訳なさそうにアポロニウスは応じた。
「頼む」

080:砂に字を書け。

 さらさら。さらさら。
 地面を撫でるようにすれば、小さな小さな音が鳴る。
 でも、コレじゃあ意味が無い。
 足を一歩前に出して、地面に押し付けたまま元の位置まで戻すと三本の線が引けた。
 これなら書ける。
 器用に体を少し浮かして、先ほどの要領で今度は丸を書いてみる。
 三十丸になったけれど、成功。
 ならばと今度は文字に挑戦。
 不恰好に重なったものの、何とか書けた『の』の字。
「いーんすよいーんすよ。今日は朝からボクの事皆さんで無視してるんすから。
 学校についていっても『縄張りに入ってくるな』ってカラスにつつかれるのは分かってることっすし、『お二人の邪魔したらどうなるか分かってますよねぇ』とかって薄さんに脅されたから部屋にも入れないっすし。
 ……こんな風に指令こなしても褒めてくれる人なんて一人もいないんすから」
 いじいじぐじぐじと文句を連ねつつも、瑠璃は器用に地面に『の』の字を書き続けた。

「100のお題 04:指令編」お題提供元:[Plastic Pola star] http://ex.sakura.ne.jp/~kingdom/