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  4. 100のお題:指令編 041~050
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041:月を見ろ。

 街の明かりをイルミネーションに、夜空に煌々と輝く満月。
「きれーだねー」
「そうですねー」
「眺めいいなぁ」
「でしょう?」
 並んで感想を漏らすのは、シオンと楸。そして、世に名高いはずの銀の賢者。
 夜闇に沈むような色の制服を着ているだけあって、下から見上げると、顔だけがぼやっと浮き上がって、結構怖い。
 そんな中一人浮き上がるように目立つのが銀の賢者、その人。まあその名に相応しい銀髪やら白い肌だとか、他のと違う青い色の制服だとかのせいだが。
 余談だが。彼女は夜中に、ふらっと散歩や月見に出かけて、その先でお化け呼ばわりされた事が多々あったりする。
 寒いだろうと差し入れされたお茶入りの魔法瓶。
 おじさんありがとうと感謝しつつ、ゆっくりと味わう。
 気持ちはすっかりお月見モード。実際のその季節はかなり先になるのだが。
「姫ってお月様好きなの?」
「星も月も好きですよ」
 にっこりと応えて、その瞳に楸とシオン、二人の姿を映す。
 何かを懐かしむような、その眼差し。
「思い出せるから、大好きです」
 結局、その後何も教えてくれる事はなかったけれど。

042:他力本願を実行するべし。

 その日、PA本部はあの日の再来を迎える。
 飛び交う怒号。そして舞い踊る精霊達。
 違うのは、騒ぎを撒き散らしている人間か。
 仲が悪いと思っていれば、最初から近づけない。
 むしろ、悪くないと思っていたから、容易に近づけた。それがそもそもの失敗。
 楸と薄。双方共に『(自分が)面白い事大好き』といった性格をしているために、気があってるなと思っていたのに。
 前回のシオン暴走時には、逃げてただけの楸が攻撃側に回り、薄とて逃げ回っているだけではない。必死に金髪兄弟が止めているが、あの様子ではどこまで冷静でいられるだろうか。
 むしろ暴れている二人に言いたい。
 主の言う事、素直に聞けよ。
 あの二人で止められないとなるとかなり厄介な事になるけれど。
 そこまで考えても、その身は動かず、事態を見守るのみ。
「ま、誰か止めてくれるでしょ」
「ゆすらさーん」
 そんな、安易な考えのもとに。

043:筆談せよ。

 かりかりかり。ぺらり。
『そもそもお前が悪いんだろうが』
 さらさらさら。ぴら。
『えー。しーちゃんのせいでしょ~?』
 すらすらすら。ぺら。
『とどめをさしたのは公子ですからねぇ』
 がりがりがり。ばさり。
『あんたらいい加減に反省しなさい』
「何をしてるんですか?」
 響いた絶対零度の声に、一様に身を震わせる四人。
 振り返れば、案の定厳しい顔の賢者の姿。
 その後ろ、恐怖に顔を引きつらせながらアポロニウスが立っている。
「まだ反省が足りないようですね」
 腕を組み、ため息つきつき四人を見下ろす姿はそこまで怒っているようには見えない。
 しかし彼らは知っている。
 彼女は容赦しないという事を。
「やっぱり禊が必要ですね。滝に打たれるのと断ち物、どちらが良いですか?」
『えええええええっ』
 器用だな、楸。
 従姉を横目で見やり、シオンは思う。
 反論は出来ない。
 あの後結局四人で暴れ回ったからというのも無論、ある。
 でもそれ以前に。
 声、封じられちゃあなぁ。

 その後、普段の倍に増水した滝に打たれる四人の姿が見られたとか。

044:トランプでピラミッドを作りなさい。

「何でいきなり難易度高いものが……」
 シオンの呟きもある意味当然。
 おとなしく出来上がる様子を見守るような連中が、ここにはいない。
「ボンドか何か使う?」
「そーゆーのは最終手段だろ」
「……最終的にはやっちゃうんだ?」
「とりあえずやるかー」
 カクタスの言葉を無視して、手に手にトランプをとり、早速作業開始。
 数十分後。
「「おおおおおおおっ」」
 みなの感嘆の声の下、完成したトランプ製ピラミッド。
「アポロニウス君器用~!」
「意外だな~」
 崩すなんて真似はせず、見事に写真に収まりましたとさ。

045:己を磨け。

「むぅ」
 指令を見やり、ため息一つ。
 磨く。
 技を?
 魔法を?
 体術を?
 それとも……びぼーを?
「最後はないかぁ」
 大きくため息。
 鏡で自分の姿を見てみる。
 栗色の髪も、琥珀の瞳も悪くはないが。
「磨いても光るのには時間かかりそーだしねぇ」
 呟きつつ、あるものを取り出し部屋を出る。

 その後、壁越しに聞こえた悲鳴は。
「なんですかそのおろしたてのヘチマはっ
 ってか指令は『己を』だろーがああああっ」
 との、カクタスの悲鳴だった。

046:宝物を見せてください。

 場所はいつものシオンの部屋。集うはアルブムプラスアルファ。
「毎度の事だが、なんでねーちゃんがいるんだ」
「気にしない気にしない♪」
 今回の指令は『宝物を見せてください』という穏便なもの。
 ならば、ということで皆で見せ合う事に。
「俺は杖かな」
 言って左手をあげるのはシオン。
「もらったときは嬉しかったし、魔導士として大切なものだし」
「そーね。あんた『誇り(スペルビア)』なんて大仰な銘つけてるものね」
「ねーちゃんの銘だって大仰だろ」
「はいはーい! あたしはねぇ」
 冷戦状態に突入する兄弟を放って楸が大きく手を上げる。
「エール・デ・レヴァリィの画集~! サイン入りなんだよ♪」
 浮かれた口調で言いながらも、布張りの表紙を撫でてその胸にぎゅっと抱く。
 ちなみにエール・デ・レヴァリィはパラミシア出身の画家。
「あー。楸ってみょーにゲイジュツ大好きだもんな」
「特に海のモチーフのが大好き♪ いつかは手に入れたいよ~♪」
 くぅっと唸る楸を眺めて、気まずそうに互いを見るシオンとコスモス。
 言えるはずがない。すでに持ってるなんて。
 持ってるどころか、モデルになった事もあるなんて。
「んじゃ梅桃は?」
「懐中時計」
 そっけなく言ってそれをテーブルの上に出す梅桃。
「なんかゆすらちゃんにしてはフツーだねぇ」
「今のところ思いつかないのよ。
 ただこれ、そこそこしたし初任給で買ったから。思い入れはあるわよ?
 それで、カクタスは?」
「うえ?」
 急にふられた訳でもないのに、カクタスは軽く狼狽し。
「あー、その。なんだ。やっぱり」
 視線を彷徨わせ、やがて観念したように言う。
 妙に真剣な顔でちょうど向かいに座っている梅桃を見つめ。
 怪しさ全開のさわやかな笑顔で。
「見えるものじゃないさ。心の中にあるんだからな」
 そう、のたまった。

047:爆笑せよ。

 沈黙が痛い。
 おかしい。
 カクタスは思う。
 次の指令は『爆笑せよ』。だから、ウケ狙いで言ったのに。
 突き刺さるのは冷たい視線。
「……なんか言ってください。すっげぇいたたまれないです」
 よわよわしたカクタスの言葉に、彼らは顔を見合わせ。
「……気障っぽくしてみたの?」
「馬鹿だろ」
「阿呆ですねぇ」
「うつけって言い方もあるわね」
「じゃあ、たわけもの~」
「やめてやれ。本気で泣き出したぞ」
 カクタス、あえなく撃沈。
「指令のために頑張ったのに……爆笑しなきゃなんないのに……」
「笑ってほしーの? ハッ」
「そんな冷笑でどーするーっ!?」
 思いっきり嘲った笑いをする楸に、瞬間沸騰するカクタス。
「いーさいいさ! どうせオレは道化だよ!
 あはははははははーっ」
「……指令クリア」
「いいのか、これで」

048:盛り付けにこだわれ。

 お土産といってコスモスから手渡された中身を見た瞬間、楸は固まった。
 そんな彼女を不思議に思いつつ、そのお土産の箱をカクタスは横からのぞく。
「あ、美味しそう。いっこもらい」
「ってかーくんの馬鹿!」
 そういって手を伸ばしたカクタスに、右手に箱を大事に抱えたまま楸は鋭い蹴りを入れた。
「菓子程度に何故蹴り……」
「いきなり手でつかもうだなんて! お菓子に対する侮辱行為だよ!」
 ぷいと顔をそむけて、台所へと上機嫌ではいる。
「えっと……皿~お皿~。うーん。黒と茶色……むー。ここは茶色でいくか。
 しーちゃん折り紙ない~?」
 妙にハイテンションな楸の声につられて、部屋からのそのそとアポロニウスが出てくる。
「何かあったのか?」
「お菓子あげたら、あんな感じに」
 倒れてるカクタスと、はしゃぎまくっている楸を見比べて問うアポロニウスに、コスモスも分からないといった表情で返す。
 そんな周りに構わず楸は上機嫌で準備を進め。
「さ! お茶にしよ~う!」
 用意されたのは人数分の茶色の皿。
 そこにまず敷かれる赤い紙。その上に少しずらすようにして白い紙が重ねられる。
 台所から持ってこられたのは、ティーセットではなく湯のみ。
 皿に敷かれた紙の上に丸いピンク色の菓子が乗せられる。
 中央に行くにしたがって色は薄くなり、ちょうど真ん中には黄色がのっている。
 桜の花を模した和菓子。
「相変わらず」
「盛り付けは巧いよな」
 梅桃とシオンの賛辞に、楸は満面の笑みで応じた。

049:趣味に走れ。

「さて」
 そう言いつつ、梅桃は机の上に物をおく。
 化学の実験に使うような器具の数々。
 見慣れない薬品。薬草の束。そして、怪しげな品の数々。
「私の趣味は薬作り」
 うん。だから、間違ってない。
 にんまり笑って梅桃は頷く。
「許可が出たことだし、思う存分実験しましょ」
 そんな不吉な言葉を残して、部屋の扉は閉められた。

050:可愛さをアピールせよ。

 指令を見た瞬間、脱兎の勢いで梅桃が逃げ出した。
「梅桃ー?!」
「何故逃げる」
 途方にくれる男二人。
 そんな中、アポロニウスだけが考えるそぶりを見せる。
「よほど嫌だったんだろうな」
「何が? 可愛さをアピールって……なんかまずいのか?」
 女の子は基本的に可愛い。そう思ってる幸せなカクタスはそう述べる。
 むしろ楸や梅桃が身近にいてそう信じられるのはすごいと思うが。
「女性の中には『可愛らしい格好やしぐさ』に異常なまでに拒否反応を示す人もいる。
 曰く、自分の柄じゃないとのことだ」
「そーいうもんなのか?」
「らしい。まあ、母が言ってた事だがな」
「そーなの」
 アポロニウスの言葉に、場違いな合いの手が入る。
 視線をやれば、ニコニコと微笑む。
「どうされたんですか、レンテンローズ支部長」
「レンでいいよって言ってるのに。謙虚だね、シオン君は」
 ちちちと指振り、ちっさな半分エルフの支部長は言う。
「あの、それで何か御用があって来られたのでは?」
「無論あるよ」
 無意味に大きく胸をそらし、自信満々に言い切った。
「可愛いって言えば、やっぱりボクでしょう!」
「「支部長?」」
 あっけにとられる彼らを余所に、レンテンローズは延々と『可愛さ』について講釈をたれたそーな。

「100のお題 04:指令編」お題提供元:[Plastic Pola star] http://ex.sakura.ne.jp/~kingdom/