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  4. 100のお題:指令編 021~030
PA

021:必殺技をあみ出せ。

 強くイメージする。
 足元にゆっくりと描かれる魔法陣。
 自らの属性は『火』。その名の通りの猛々しい力を感じながら。
 部屋の真ん中、杖を振りかざしカクタスが叫ぶ。
「轟け! 炎熱の導!」
 落ちる沈黙。
 振りかざしたままの格好で固まるカクタスに、仕方なく梅桃が口を出す。
「意味わからないから」
「炎熱って……灼熱とかじゃないの~?」
「あーもう! うるさいなッ」
 つっこみに耐え切れずカクタスが騒ぐ。
「いいじゃないか必殺技! こういう指令ならオレどんどんやるぞ?!」
「それに関しては置いておくとして、何でいきなり妙な詠唱するの?」
「必殺技を作ろうと思って」

「目覚めよ。天より降りし生命の源泉」

 その言葉に少女達は顔を見合わせ、ため息をつく。
「普通の術の使えない術者の言葉じゃないと思う~」
「オリジナルの術組み立てようなんて……」
「山吹、その態度滅茶苦茶腹立つぞ」

「空へと還りて宙に舞い、寄りて集いて陰雲となれ」

 可哀想なものを見る目で言う梅桃に、流石に反論するカクタス。
 早い話が『身の程を知れ』といいたいのだろう。
「そんな馬鹿な事しようとしてるってシオンに知れたら、説教じゃすまないと思うけど?」
「向上心があっていいって褒めてくれるんじゃないか?」
「かー君てばほんとに楽天思考ね~」

「闇に宿りし光の覇王。我が招きに応じ、その大いなる力を示せ」

 しかし、いい加減この詠唱に気がつかないのだろうか?
「しーちゃんのことだから、『これくらい出来て本当の必殺技だ』とか言うんじゃないの?」
 にっこり笑っての楸の言葉に、梅桃が渇いた笑みで応える。
「……楸、ビンゴ」
「ほへ?」
 振り向けばそこには杖を手にしたシオンの姿。
 詠唱はあらかた終わったのか、足元に巨大な魔法陣が描かれている。
 二重にも三重にもなった円の中。荒れ狂う魔力。
 色が緑という事は風の属性なのだろう。
「ってシオンその術!」
「え? なんかすごいのなのか?」
「轟け 弾劾の怒号」
 わたわたする三人にかまわず、シオンは詠唱を続ける。
 主を必死に止めようとしたのだろう。
 哀れ使い魔はシオンの足元に凍りついたまま転がっている。
「何で一人で発動できるのよッ」
「あーまあ、しーちゃんだし」
「ってなんかすごい魔力なんですケド。
 見習のオレが分かるくらいスゴインデスケド?」
「奏でよ 断罪の調べ!」
 術の正体に気がつき、わめく梅桃。
 判らないものの嫌なものを感じて青ざめるカクタス。
 そして詠唱を続けるシオン。とうの昔に目は据わっている。
「だからなんで発動できるの?!」
「わー。あたしこの術見るのはじめてー。
 本当に一点にわかに掻き曇ってるねー」
「何で山吹サンはそんなに慌ててるんでしょう? 初めて見るヨそんな君。
 何で橘サンはそんな平坦な口調で目がウツロなんでしょう? 初めて見るヨそんな君」
「来たれ 裁きの雷!!」
 最後の一節に合わせて、空が鳴動する。
「ほんとに発動してるううぅぅぅうッ」
「さすがしーちゃんすっごーい」
「おとーさんおかーさんすみません。ふしょうのむすこをおゆるしください」
 そして。
 文字通り、雷が落ちた。

022:空を飛びなさい。

 テレビではニュースがひっきりなしに流れている。
 天気予報士は嘘つき呼ばわりされ、畑の主は小屋だけですんで幸いとコメントを漏らしている。
 しかし彼らが熱心に見ているのは例の指令書。
 ニュースなんて恐ろしくて観れたもんじゃない。
「空を飛ぶって……そんな術無いよねぇ?」
「無いわよね」
「そーだな、ないな」
 平然と返すシオンに、刹那時が止まる。
「何でシオンあんなに元気なの? 一人じゃ発動できないって常識の術使ったのに」
「まあしーちゃんだし」
「それですむのがなんとも……」
「……恐るべきは血筋ね」
 頭を寄せ合ってひそひそ話。
 話題のシオンはニュースを面白くなさそうに眺めている。
 雷落とした張本人がなんて態度だとつっこみたいのは山々だが。
 自分の身が愛しいので黙っておく。
「どうするかな? 瑠璃飛ばすだけじゃまずいだろうし」
 困った表情のシオン。
 ちなみに瑠璃はちゃんと解凍済み。……拗ねて飛んで逃げたのは当然だろう。
「あーじゃあシルフでも喚んでみようか? 人一人なら浮かせてくれると思うし」
 結局その案が可決され、空を飛ぶ……もとい空に浮く楸の写真がとられた。

023:電話を活用せよ。

 毎度のように指令を見てむうと唸る。
「コレもどうするかな~」
 電話なんてそもそもあまりかけないし、かけるにしてもどこをどうすれば活用した事になるのやら。
 唸るシオンの目の前にカフェオレが置かれる。視線が合うとにやっと楸が笑った。
 ……嫌な予感。
「もう済ませたよ?」
「は、どうやって?」
 詳しく聞こうとしたそのときに、大きな音を立てて扉が開かれる!
「ちょっとシオン! どういうことよッ」
 怒鳴りつつ部屋にづかづかと入っていたのは一人の女性。
 刈入れ時の小麦の金の髪をなびかせて、紫紺の瞳に怒りを灯して。
 アルブムのメンツは皆彼女の顔を知っている。
 何より、彼女によく似た少年がここにいるのだから。
「何でまた部外者が居るんだよッ」
 PAは役目が役目だけあって一般人の立ち入りにはとても厳しい。
 だというのにこの姉ときたらッ!
 睨むシオン以上に女性は怒鳴る。
「やかましいッ あんた何企んでるの!」
「なんの話だッ」
 シラを切るつもりかと女性がまなじりを吊り上げた瞬間、のんきな声が響いた。
「いようシオン! 粋なことするなっ」
 魔法協会の要職者専用の格式ばったローブ。
 白いものの混じった金の髪は綺麗に後ろに撫で付けられ、いたずらざかりの少年のような紫の瞳で一堂を見渡し。
「……て、おお!主役が居るじゃないか!」
 言って女性に近づき両手で握手する。
「ちーがうのーっ 大叔父さん信じないでーっ」
「シオン遊びに来たよ。ああコスモスも居たのか!
 おめでとう。年月が流れるのは早いものだね。あのコスモスが……」
「あの、ジニアおじさん何の話?」
 いきなりやってきて思い出に浸るお茶大好きおじさん。
「シオン君遊びに来たよ~♪ あ、コスモスちゃんおめでと~」
「コスモスさん、おめでとうございます」
 最後にやってくるは金と銀の人外コンビ。
「違うって言ってるのにいいいいいいいっ!!」
 半泣きのコスモスにかまわず、突然の来客たちはおめでとうコールを繰り返す。
「楸……何連絡網回してんだ?」
「活用してるでしょ?」
 えへへと舌を出して笑う楸は、やはりあくまだと思った。

024:甘栗の皮をむきまくれ。

 沈黙がこの場を支配していた。
 音などは殆どたたない。うまくいけばつるっとむけるが、失敗すれば哀れ原形を留めぬ姿になり、そのまま誰かの口に消える。
 机の上には紙袋が数枚。そして、皿一杯の甘栗の山。
 楸とカクタスはひたすら手で、梅桃とシオンは果物ナイフで。
 丁寧に向き続けている。
「一体いつまでやればいいんだ?」
 カクタスがそうぼやくのは、結局六袋分すべてをむき終わってからの事だった。

025:花畑で追いかけっこして下さい。

 PAの敷地は広い。まあ、元々広かったといっても良い。
 ここはデルタ都市で川が多かった。
 広い土地を確保するために、街の中心でもある一番大きな中洲を買い取ったという。
 それだけ広いとやっぱり色々あるもので。花畑もあったりする。
「これってさ」
「うん?」
 珍しく虚ろな楸の声。返すシオンの声も暗い。
「タイトルから考えるに『ま~て~よ~♪』とか『捕まえてご覧なさ~い♪』っていうバカップル全開なものを期待されてるんだよね?」
「だろーなぁ」
 そう。だからこそ、コレをやるのは誰にするかと揉めた。
 そりゃもう揉めたのだけれど。
 目の前の光景は……出来れば目を背けてしまいたいのをこらえてカメラを構える。
 咲き競う花々の中。追いかけあう一組の男女。彼らを撮る為に。
「まああああてえええええッ」
「まてるかああああッ」
 金髪なびかせ、鬼気迫る顔で追うは二十歳前後の女性。
 赤毛を翻し、必死に逃げるのは同じく二十歳前後の男性。
 このコンビを知らないものはいまやPA内にはいないだろう。
 そのくらい騒ぎをおこしているのだ。こいつらは。
「公女~。猫が脱げてますよ~」
 一人離れて、にこにこと悪意ありまくる笑顔を浮かべる黒髪の青年。
 普段彼とは意気投合することの多い楸だが、女性に聞かれていてあとで問い詰められたら怖いので沈黙を守る。
「あんたと関わってからろくな事ないわあああっ
 責任とれーッ」
「そんなこと言われても知るか! 最初に関わるなって言っただろうがッ」
「公女~。そのようなおっしゃり方だとある意味プロポーズですよ~」
 青年の言葉に女性の足が止まる。
 ポケットに手を突っ込み、とり出だしたるは数々の魔封石。
「二人ともそこに直れ!」
 そして始まる一方的な魔法合戦。
 先ほどのシオンじゃないけど、なんでこの兄弟はキレるとすぐに魔法を放つのだろうか。
「ねー、しーちゃん?」
「うん?」
「いいカップルだと思わない?」
「……否定はしない」
 必死に逃げるもの、必死に追うもの。
 だけど。
 真実を写すそれが捉えた二人の表情は、とても楽しそうでもあったから。

026:愛を求めよ。

「なんかかー君、こーちゃんに懐いてるね」
「懐いてるっていうか、あれはゴマすりだろ」
 視線の先には噂の二人。
 甲斐甲斐しく荷物を持ったり、扉を開いたり。
 普通なら恋人同士か、それでなくても仲がいいと思われるような光景だが。
 女性の方が公爵家の令嬢である事は周知の事実。
 むしろカクタスが世話焼かなくても、何とかお近づきになろうと狙ってる連中は多い。
 もっとも、そこは魔導士。
 公爵家の地位や財産よりも『魔導士の名家』という肩書きに踊らされている。
「で、なんでかー君はこーちゃんに懐いてるの?」
「だってシオンのねーちゃんってことは、オレは弟の友達なんだから、チョコもらえるかもしれないじゃんッ」
 聞いた楸の目が点になる。
 何故そこでチョコが出てくるんだろう?
 そう考えて。
 隣で梅桃が深いため息を吐き出す。
「二月までどれだけあると……」
 ああそうか。バレンタインか。にしても、気早すぎ。
「口で言わなきゃ分からんと思うぞー」
 故郷と違う風習だし。
 そう言ったシオンの言葉は生憎カクタスには届いておらず。
 後に、PA内でコスモスのチョコをもらったのは三人。
 その中にカクタスが含まれていたかは……想像に任せよう。

027:上下ジャージに身を包むべし。

 かしゃり。
 ずいぶんレトロな音をして、デジタルカメラは撮影を終える。
「よし」
 きちんと撮れている。そろそろデータを写した方が良いかな?
 そんなことを考えていると、背後から沈痛そうな声が響いた。
「ロータス君」
「はい?」
 応えて振り向けば、困った顔の熊さん。もとい、熊のように大柄な体育教師。
「これは本当に仕事なのかね?」
 そう言われても困るのだけど。
「質問は団長にお願いします」
 よそ行き笑顔でシオンは相手の疑問を封じる。
 だって仕方ないじゃないか。
 上下ジャージだなんて、体育の時間にでも撮るしか。

028:眼鏡を外せ。

 その指令は、確かに難問だった。
「めがねって……」
 うめく梅桃。それに呼応するかのようにカクタスも焦った声を上げる。
「萌え要素のめがねっ子は一人も出てきてないぞ!?」
「いや心の底からどーでもいいから」
 ぱたぱたを手を振りながら、シオン。
 とはいえ困った。『外せ』と言うからにはかけてないといけないし。
 とはいえかけてる人間を探すのも難しい。
 魔導士なんて職業には眼鏡がオプションでついてきそうなものだが、生憎こちとら職場は現場。
 PAになるためには視力だって一定以上じゃないといけない。
「普段からかけてる人って……」
 思案するように言う梅桃。そして。
「「あ」」
 何故か四人揃って声を上げた。

「という訳ですので、団長。
 眼鏡を外して下さい」
「……何でそんな指令があるんだ」
 当然のことと訴えれば、ひどく疲れた顔で問い返された。
「何でって……団長が作られたんでしょう?」
 嫌なら最初からこんな指令やらすなとの無言の訴えが聞こえたか、眉をぴくんと上げて団長が言い返す。
「内容には触れていない」
「ではどなたが……」
 聞き返そうとして、その瞬間脳裏に浮かんだ二つの姿。
「……あ、なんだか分かったような気がします」
 聞くことをせずに写真だけを撮らせてもらう。
 きっと、きっとこれをやらせたのは。一人はからかい好きの半分エルフ。
 そして残る一人は……

029:おやつはスルメイカで。

「かーめばかむほどあじがでる~♪」
「なんだ好きだったのかスルメ」
「ん! 昆布も好きだけど~」
 上機嫌でするめを食べる楸と、不満そうにするめを食べるカクタス。
 とっくに写真は撮り終わってるのに、一体いつまで食べる気なのか?
「ほどほどにしとけよ」
 そう言ったにもかかわらず……
「あ……あごが……」
 とか翌日言い出す弟子を、俺はどうしたらいいんだろう?

030:己の理想を力説せよ。

 指令内容確認し、四人は顔を見合わせ大きく頷く。
 場所はPAの中庭。揃って本部のほうを向き、大きく息を吸い。
 思い思いに理想を叫ぶ!
「サービス残業撲滅!」
「完全週休二日制求む!」
「労働基準法に準じる勤務時間を!」
「職業選択の自由を!」
 突如の大声に、静まり返りシオンたちに注目する職員たち。
 そして、歓喜と同意の声があがる!
 ブラボー! そーだ! もっと言えー!
 声援に手を上げて応えるシオンたち。
 頭痛がしたのは気のせいでは、けしてない。
「それは要望とか希望だろう……?」
 思わず呟いた言葉は、意外なことに聞こえていたらしい。
「あ、そっか」
「理想か」
「だったら」
「そうね」
 顔を見合わせ、にやっと笑い。
「「休ませろーッ!!」」
 先ほどとは比べ物にならない声が唱和した。

 その頃の団長室では。
「団長……」
 はらはらと涙を流す副団長と。
「……言うな」
 今にもストレスで倒れそうな団長だけがいたという。

「100のお題 04:指令編」お題提供元:[Plastic Pola star] http://ex.sakura.ne.jp/~kingdom/