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  4. 100のお題:指令編 001~010
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001:手袋を投げろ。

 指令とかかれた封筒の封を開ける。
 中に入っているのは十枚の便箋。一枚あたりに十個の指令が書かれているようだ。
 最初に書かれていたのは。
 『001:手袋を投げろ。』
「これって決闘ってことなのかしら?」
「かなあ?」
 手紙を見て顔を寄せ合い首をかしげる梅桃と楸。
「あ、でもどうやったら指令クリアになるの?」
「証拠写真撮っておけと言われた」
 シオンの手にはデジカメ。
 どうやらただのお遊びじゃあなく本当に罰ゲームのノリである。
「決闘ねぇ。ま、いいか」
 ため息ついてシオンは小道具用の箱をあさる。
 無論これも団長達がわざわざ用意したもの。とことん暇人といえよう。
 箱の中から白手袋を取り出してシオンは居間から移動し、扉の一つをいきなり開ける。
「さあ潔く決闘に応じてもらおうか!」
「は?」
 部屋の主は当然のことながらそう言って怪訝な表情をした。
 赤い髪に緑の目の、数ヶ月前に入団したアポロニウス。
 アルブムの残る三人は事の成り行きをわくわくしながら傍観中。
「決闘? 何で私がシオンと決闘をする必要があるんだ?」
「アルブムに来てる指令だから当然巻き込む」
 アポロニウスのもっともな疑問にシオンのもっともな言葉が返る。
 杖を呼び出してぽんぽんと自らの肩を叩きつつ。
「前々からアポロニウスの実力調べとかなきゃいけないとは思ってたし……
 それにねーちゃんのこともあるし?」
「コスモスの?」
「そう」
 コスモスはアポロニウスの命の恩人だ。
 その彼女が何で関わってくるのだろうか。
 不思議そうな顔をするアポロニウスに対しシオンは笑顔で……長い付き合いのものには分かる、やばい時の笑顔で答える。
「俺がわざわざ聞かなくっても近所から新聞から薄から色々言ってくるもんで、一応次期当主という事もあるし、弟としてやっぱり気になるから」
「色々って……待て待て誤解で根も葉も」
「問答無用! いざ尋常に勝負!」
 白手袋をぶつけるなりシオンの手にした杖が応えるように光を放ち。
 そこまで見た時点で梅桃はすばやく扉を閉めた。無論写真は撮影済み。
 彼のことだろうからちゃんと結界は張っているだろう。
 その証拠という訳ではあるまいが、攻撃魔法の応酬をしているはずの室内からまったく音は洩れてこない。
「さりげなくシオンってシスコン?」
 梅桃の意見に楸が頷きしみじみと感想を漏らす。
「やっぱりそう思う? まぁこーちゃんもブラコンだけど」
「……次行きましょうか」
「これ。本当に指令か?」
 カクタスの疑問に応える声はなかった。

002:未知との遭遇。

「まああっちはおいといて、次の指令は……」
 そう言って指令を確かめる。そこに書かれていたのは。
 『002: 未知との遭遇。』
「どうしろと?」
 未知との遭遇。宇宙人にでも会えってか?
「未知ねぇ……瑠璃君とか?」
「ボクは立派な使い魔っすよ。全然未知じゃ無いっす」
 抗議をして瑠璃は楸の肩へと止まる。
「未知ってなにがあるんだ?」
「人でなくてもイイのよね」
「何かわからないからこその未知っすよ」
 瑠璃の言葉に楸は首をかしげて、ぽんと手を叩く。
「あのヒトとかいいかも」
「あの人?」
「じゃあ早速行ってみよ~」
 楸に誘われて歩く事しばし、たどり着いたのはPA内の大図書館。
 その館長室で楸は彼女を相手にカメラを構える。
「ちょっとそこに立って、じゃあ撮るからね」
 案の定彼女はすんなり頼みを聞いてくれて、普通に写真を撮って任務終了。
「何に使われるんですか?」
「思い出作り~」
 さらりと雪色の髪を揺らして二色の瞳で見つめてくる女性に楸はニパッと笑って応える。
 本当のことなど言えようもない。
 まあ彼女のことだから呆れて絶句する程度の事だろうけど。
 それでも……好き好んで自分に不利になる事を知らせるいわれは無い。
「お邪魔しました~」
 かくして高名な銀の賢者は自分が未知扱いされたと知ることなく、楸たちを見送った。
「いいの? こんなので」
「え? 間違ってないでしょ?
 今はもう滅んだ種族。おじーちゃんが赤ちゃんの頃から変わらない容姿。
 ばっちり未知だって」
「ご本人に知られないようにしてくださいね?」
 だいぶ離れてからこの会話が交わされたことはいうまでもない。

003:デコピンしなさい。

「さて次は」
 指令の便箋引っつかみ、女性陣が頭を寄せて内容確認。
「あ、これ簡単だ。
 んじゃあたしが写真とるね」
 宣言してカメラを構えて楸が少し距離を開ける。
「じゃあカクタス。ちょっとしゃがんで」
「はい?」
 向かい合って言われてカクタスはおとなしくしゃがむ。
 カクタスも楸も背が高いから、普通に立っていると梅桃とは頭一つ分くらい違う。
 近くなったカクタスの額に渾身の力をこめてデコピン。
「何すんだよっ」
「指令だもの。楸撮れた?」
「ごっめ~ん。シャッター押し忘れた」
 悪びれることなく言う楸。カクタスの額はすでに赤い。
 文句をいう前に二撃目が襲う。
「~っ」
 痛い。半端なく痛い。
 まるでどうすれば一番ダメージがいくか知っているかのようなこの威力。
 今度こそはと視線を向ければ、天真爛漫を装った楸の満面の笑み。
「タイミングずれた~」
「お前わざとだろ?!」
 ……結局カクタスは撮影に成功するまで六回もデコピンを食らう事になる。

004:資料とにらめっこするべし。

 文句をのべるカクタスを適当に受け流して部屋へと戻ると、先ほど決闘をしたはずの二人が仲良くお茶をしていた。
「あ、いくつか終わらせたんだな」
 そう問い掛けてくるシオンはいつもの様子。
 流石にアポロニウスは疲れた顔をしているが。
「しーちゃん。もういいの?」
「ん? 一応な」
 一気にお茶を飲み干して軽く答えるシオンの耳に、アポロニウスのうめきが入る。
「何かストレスためてたのか?」
「たまらないように見えるか?」
 切り返されてアポロニウスは沈黙するのみ。
 こういう切り返しの仕方は兄弟だけあってコスモスに良く似ていると思う。
 ちなみに受けたダメージの数々は自分できっちり治しておいた。
 確かに治癒魔法は覚えておいて損はなかったですとかはるか昔に星になった父に報告してみる。
「んで次の指令は?」
「これこれ」
 『004: 資料とにらめっこするべし。』
「日常的にやってるけどな」
「始末書でしょ? にらめっこしてるのは」
 苦笑するシオンに梅桃が訂正を入れるが、彼は別に気にした風もなくデジカメのデータをチェックし始める。
「ふ~ん。楸がまだ写ってないな。じゃ楸撮るか」
「ほいほ~い」
 幸いな事に資料に見えるようなものはたくさんある。
 難なく四つ目の指令終了。

005:携帯を投げろ。

「さて次の指令は、と」
 こういう指令ならば手の早いのがいる。
 早速彼女が嬉々として動いた。
「かーくんの携帯ゲット~」
「うぇっ?!」
 そういう楸の手にはすでに黒い携帯が。最近CMでよくやってる最新のモデルっぽい。
 あたふたと服のポケットを探り、しかしストラップから間違いなく自分のものだと理解してカクタスは悲鳴をあげる。
「やめてえええっ 変えたばっかなんだ~っ」
 しかし楸はにっこり笑って大きく腕を振りかぶる。
「問答無用」
「ああああっ」
 カクタスの悲鳴と共に携帯が大きく弧を描き、見事に移動していたシオンの手のひらに収まる。
 それを見て息をつきつつカクタスはその場にへなへなと座り込んだ。
「も~。かーくんってば大袈裟~」
「撮ったか?」
「ばっちり」
 確認しあう二人に対し、カクタスは両手を使ってさかさか移動して、シオンから携帯引ったくり、涙を流さんばかりにほお擦りする。
「こ、壊されなくてよかったあああ」
「信用無いな~」
 そりゃあないだろうよ。
 楸を除く面々が思った事はいうまでもない。

006:時間を気にしてください。

「次の指令は」
 シオンが便箋をめくる。
「これってどうしろと?」
「時計をちらちら見るような感じか?」
 アポロニウスの言葉に一同考え込む。
「せかせかしたイメージがいいよね。じゃあかーくんいってみよう!」
「へーへー」
 拒否権などない。
 それが分かりきっているカクタスは逆らうことなく従った。

007:とにかく押さえつけろ。

 指令内容を確認した瞬間、シオンはアポロニウスを呼んで説明をはじめた。
 どうやら今度は彼に撮らせるらしい。
「これを押すのか?」
「そう。音がするまで押し続ければいいから。
 そしたらここに静止画が映るから」
「こんな感じか?」
「そんな感じ」
 まあ後九十以上も指令が残っているのだから、操作くらい知っておいてもらわないと辛いのかもしれないけど。
 まるっきり他人事で二人を見やる楸。
「じゃ、アポロニウス頼む」
 シオンの言葉と同時にいきなりな圧力。
 気がつけば楸は三人がかりで押さえつけられていた。
 撮影終了の小さな電子音が妙に癇に障る。
「納得いかないんだけど」
 押さえつけられたままの楸の言葉に。
「お前以外に思いつかないし」
 代表してシオンが平然と返した。

008:テディベアにキス。

「で、次だけど」
 困ったような顔で梅桃が指令を見せる。
「テディベアってあるか?」
 とりあえずもってそうな二人にシオンは聞いてみる。
「ぬいぐるみは持ってきてないわ」
 梅桃の言葉に楸も頷く。
 元々このチームはこの国の出身者がいない。となれば。
「ん~。買って来るとこから始めるしかないか?
 それとも誰か貸してくれるかな?」
 首をひねるシオンに梅桃。そこへ楸が一言。
「え? かーくん持ってるじゃない」
「だわ~っ ちがっ あれは!」
 ……この反応からするに間違いなくもっているらしい。
「ならカクタスにやってもらいましょうか」
「い~や~っ」
 言葉を失うシオンと意味のわからないアポロニウスをよそに、冷静な梅桃の意見。
 騒ぎ立てるカクタスを見て、楸はちらりと視線を動かす。
 目に入ったのは少しでも安らぎをと昔買った小さな植木鉢。
 植物があるならあれが使える。
 呼び出すのに時間は要らない。さりげなく喚び寄せておいてから。
「やってくれるよねぇ?」
 と問い掛ければ。
「もちろんだよぉ心の友。このクマさんに親愛のキス~」
 定まらない焦点のまま指令を実行するカクタス。
「えげつないなぁ」
 苦笑するのは無論シオン。
 植物の精霊・ドリアードの力を借りてカクタスを魅了し、意のままに操った楸に対するコメント。
 それに関しては梅桃も同意見だ。だが。
「とか言いつつしっかりシャッター切るのね」
 このツッコミに、返事が返ることはなかった。

009:整理整頓しなさい。

 一同を見回し、シオンが言う。
「掃除に自信のない奴、挙手しろ」
 上がったのはカクタスと楸。
「とりあえず見て見ましょうか」
 まずは手近にあった楸の部屋のドアを開け。
 そのまま固まる。
 そこは酷い空間だった。本が投げ捨てられ、靴が放り投げられ、食べかすが……
 一言で言うなら、腐海の森。
 真っ先に正気に戻ったのは意外にもカクタスだった。
「女ならちったぁ片付けろよ!」
「ああ! 差別発言だ~! ひっど~い!」
 ぎゃあぎゃあと口げんかをする二人に対し、シオンは力なく呟いた。
「つーか人として片付けろ。少しは」
 追記・掃除には五人がかり(+使い魔)で丸一日要した。
 ちなみに言うなら、部屋の広さは六畳ほどである。

010:メールにハマれ。

「誰とメールしろっちゅーんじゃ」
 投げやりに言うカクタス。
 疲れているのは分かる。しかしこの指令をクリアしてもようやく一割完了という事に彼は気づいているのだろうか。
 気づいているからこそ、嫌なのかもしれない。
「パソコンでもいいだろ?」
「はまるって言ってもねぇ」
 ちなみに今回アポロニウスはまったく関われないだろうという事で除外。
 どこに行っていたのか楸が落胆した表情で戻ってきた。
「かー君のメールボックス、メルマガばっかりだったー」
「プライバシーとか個人情報保護とか」
 ふるふる震える彼にはかまわず、楸は傍らの友人に問い掛ける。
「梅桃ちゃんは?」
「今日も何にも?」
「むぅ。あたしもメールはほとんど携帯だからなぁ。
 しーちゃんのパソコンはどうかな?」
「壊すなよ。あとウィルスも入れるな」
 言い捨てて勝手に立ち上げる楸に、もう諦めきったシオンの声がかかる。
 早速メールソフトを起動。そこそこにメールは受信して……マウスを持つ手が止まる。
 差出人はそのほとんどが『馬鹿姉』。
 ためしに一つ開いてみれば……
「ケンカにメール使うか?」
 画面を覗いていたカクタスが呆れた声を出す。
「時間差兄弟げんかにしては力はいってるね~」
「あの兄弟の口げんかは聞きたくないけど」
 梅桃の言葉と同時にシャッターが切られる。
 これにて指令、一割完了。
 にしても。
「本当にこんなので良いのか?」
 アポロニウスの問いに答えるものはいなかった。

「100のお題 04:指令編」お題提供元:[Plastic Pola star] http://ex.sakura.ne.jp/~kingdom/